スープ屋しずくの謎解き朝ごはん

≪あらすじ≫
店主の手作りスープが自慢のスープ屋「しずく」は、早朝にひっそり営業している。早朝出勤の途中に、ぐうぜん店を知ったOLの理恵は、すっかりしずくのスープの虜になる。理恵は最近、職場の対人関係がぎくしゃくし、ポーチの紛失事件も起こり、ストレスから体調を崩しがちに。店主でシェフの麻野は、そんな理恵の悩みを見抜き、ことの真相を解き明かしていく。心温まる連作ミステリー。
(単行本裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
結構いろいろと仰々しい言葉が並べられた帯にひかれて手に取った一冊w
基本路線は『タレーラン』などと同じ日常系ミステリー。あらすじの通り殺人事件などは起きず、単純に日常のちょっとした謎や不可思議なことを解いていく、という形。まぁ、『タレーラン』の喫茶店ではなく飲食店版、という感じと言えばそんな感じ。
登場人物が他の短編にも出てくるのが特徴といえば特徴。特に新キャラはたいてい既存のキャラの紹介で朝営業を知ってやってきて~という流れ。
ただ、それもひっそりと営業している朝営業という設定上、そうした人伝てによる口伝てがないと分からない、とも考えることが出来るので、他の似たようなことをしている作品よりはずっと説得力があった方だと思う。
同様に、そのような特徴があるため登場人物たちの繋がりも極めて濃密。職場の同僚から友人など幅は広いが必ず繋がっている。店主である麻野暁や店員の「慎哉くん」もいるが、そういったキャラクターたちもそういった関係というか繋がりを強く持っているキャラばかりで、それをもしかしたら人によっては「ご都合主義」と思うかもしれない。
ミステリーそのものは、先に挙げたように日常系のネタなのでそこまで凝ったものではない。最後のエピソードは書下ろしのせいか、やや趣きが他の短編とは違っていたのが個人的に残念。あのエピソードがないと麻野親子に関することなどが明らかにならないので、ないと困るといえば困るのだが、一方で他のエピソードと調和が取れているかと言うとあまりそんな感じはしない。
あとは、最後のエピソードで母親が別れた娘の誕生日まで覚えてないっていうのはぶっちゃけあり得ないんじゃないかな、と思った部分が萎えてしまった部分、かな。娘の誕生日ってことは同時に自分が死ぬほどの苦痛を味わいながら出産した日ってことでしょ。そう簡単に忘れられる日じゃないんじゃないかな。
なのでてっきり実の母親ですらなくそう装っている詐欺師とか過去編にも関わる人物なのかなと思ってたら、あの結末だからそういう部分は消化不良というか微妙だったところ。
そういう部分含めて書下ろしとそうじゃないエピソードの温度差というか空気感の違いみたいなものは感じてしまった。
評価は、★★★★(4点 / 5点)。スープに関する知識もちゃんと調べてあるようだし、日常系謎解きミステリーとしてはトリックや謎そのものに捻りはないが、そこそこの及第点だと思う。それ以上に全体の空気感や、読ませる文章力が堅実でしっかりしていた印象。それだけの最後の書下ろしのエピソードだけ「浮いて」いたのは勿体ない。
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