魔女は月曜日に嘘をつく

≪あらすじ≫
北海道は江別市にある「フクロウの丘」。緑豊かなこのハーブ園に住む「魔女」それが卯月杠葉だ。可憐な容姿に反して大の人嫌いの彼女には、感情や嘘を見抜く力があった。ある事情から魔女の下で働くことになった俺は、今日も秘密を抱えたお客を迎える。ココロゆさぶるキャラミステリ。
(単行本裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』シリーズの太田紫織さんが、新たに刊行された朝日エアロ文庫で出した作品。もともとは「E★エブリスタ」という小説投稿サイトに投稿していたものを手直ししたものらしい。
ちなみに表紙絵および人物紹介絵は、このサイトでもおなじみの『Q』シリーズなどの清原紘さん。道理でどこかで見たような顔と絵風だと思ったよ(笑
キャラミステリ、とあらすじにはあるが、実際には大人版ボーイミーツガールという感じか。あるいはヒューマンドラマ風。ただ定義的にはどちらかといえば、やはりボーイミーツガールに近い気がする。仮に主人公・犬居克衛(いぬい・かつえ)とヒロインの卯月杠葉(うづき・ゆずりは)が共に中高生だったなら間違いなくジャンルはボーイミーツガールになったと思うし。
内容としては、克衛と杠葉の出会いから少しずつ距離を縮めて行く過程で起きる、小さな日常的事件に関わっていくという感じ。前述のようにあらすじでは「キャラミステリ」とあるが、ミステリー的な要素はないと言っていいので、その辺を期待している人は注意。
内容とは別にテーマとして、「生きる上で嘘が必要だと信じて疑わない克衛」と「この世のありとあらゆる嘘は人を不幸にするだけでしかないと断言する杠葉」の立場の違い、だろう。もっと簡単に言えば「嘘」ということに肯定派の克衛と否定派の杠葉の価値観の違い、だ。
「優しい嘘」なんて言い回しも世の中にはあるようだし生きて行く上で、人づきあいの上で嘘は必要悪なのか。あるいは嘘はその中身に問わず全てを悪と断罪して良いのか。
そういった部分を物語の随所で描いていると思う。ただ、終盤に進むにつれて克衛の方が杠葉に合わせることが増えて来たこともあって、そういったテーマ的な部分があいまいになってしまった感じも否めない。シリーズ化するつもりならその辺の結末と言うか結論は先伸ばしなのかもしれないが、もうちょっと克衛・杠葉がそれぞれの言動に踏み込んでそれを受け入れるか否かを現時点で判断させても面白かったのかな、と思う。
一つの特徴として太田さんらしく北海道に関する描写は飲食に関する描写には定評があると言ってもいいだろう、もう。『櫻子さん』シリーズ同様に北海道が舞台になっていてそこの描写は多すぎず少なすぎずで絶妙。
また今作はハーブに関する知識をふんだんに取り入れているのも特徴だ。ハーブには全く詳しくないのでこの描写が正しいのかどうかとか、描写として的を射ているのかどうかというのは分からないが、一つのアクセントにはなっただろう。
キャラクターとしては主役二人のほかのキャラクターたちが使い捨てになっていない点が凄いところであり、言葉は悪いが陳腐に感じてしまったところでもある。役どころとしてレギュラー化することが必須だったか、というと微妙なキャラクターも多い。
結局、克衛が杠葉を少し意識して恋愛模様になりつつあるのは仕方ないこと、かな。
実はそういうところも含めて、表紙絵のせい(おかげ?)も相まって印象的にはすっかり『Qシリーズ』の外伝っぽい感じ。あちらほど事件と言う事件はないが、Qシリーズが鑑定能力ならばこちらはハーブやオーガニックの知識という違いなだけで、全体的な構図みたいなものがとてもよく似ている感じがする。
もっとも、この手の構図は別にQシリーズが初めて導入したものではなく、小説などの創作においてはありきたりな設定なので、これでパクりだなんだというつもりは毛頭ないのだけどね。
ただ雰囲気は似ている。Qシリーズの雰囲気が好きな人ならもしかしたら肌に合うかもしれない。
評価は、★★★☆(3.5点 / 5点)。一本の繋がりを意識し過ぎたのかやや人間関係が都合よく展開している部分など構成はもうちょっとと思うところもあるが、面白く読めた一冊だった。杠葉のキャラクターへの好悪がそのまま作品の評価に繋がるような気がする。
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