探偵の探偵 I

≪あらすじ≫
中堅調査会社が併設する探偵養成所に、決して笑わぬ美少女・紗崎玲奈が入校する。探偵のすべてを知りたい、しかし探偵にはなりたくない、という彼女には、自分から言えぬ過酷な過去があった。調査会社社長・須磨は玲奈の希望を汲み、探偵を追う“対探偵課”の探偵として彼女を抜擢した。怒涛の書下ろしシリーズ開幕。
(単行本裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
Qシリーズや千里眼の松岡圭祐さんによる新作書下ろしシリーズ、二か月連続刊行の一冊目。
探偵を追い探偵を食い物にする探偵、というのは発想が面白い。似たようなことは吸血鬼系ではマイナーだけど目にするテーマだけどね(「人間の血を吸う吸血鬼の血を吸う吸血鬼」と言う具合に)。
「探偵の探偵」とあるが、表紙には「Detective versus Detectives」とあり、探偵の探偵というより探偵vs探偵であることがしっかりと描かれてもいる。
ただ、それらの作品との印象は違う。たいていこの手のキャラの場合、その存在に対して優位性を誇っている場合が多い。もっと言えば天敵だ。
しかし実際にはそうではない。探偵を負う探偵は、紗崎玲奈(ささき・れな)はあらすじの通り業界中堅規模の探偵会社が運営する養成所こそ出ているが実績はわずか一年。知識はあっても経験が足りないから相手の罠にもハマって、生死の瀬戸際を一巻のわずか300ページ程度の内容の間に何度も綱渡りをさせられている。
それを是と出来るか、非と感じてしまうかによって作品の評価は変わって来るだろう。一巻ないし序盤の巻で壮大な敵へと立ち向かう感じは、Qシリーズやαシリーズにも似ている。松岡さんとしては新シリーズもどこまで続くのか不透明な中では、出し惜しみはしないというスタンスなのかもしれない。そうだとするなら好感が持てる。
千里眼シリーズや他の作品は目にしたことがないので難しいところだが、一応Qシリーズとαシリーズ既刊全巻を読んだ者としては、一歩踏み込んできた描写が多いと感じたのが本作だ。
それが顕著に見て取れるのは暴力シーン。暴力と言っても生半可なものじゃない。先に挙げたように生死の綱渡りをするようなものばかりで、一歩加減を間違えれば相手を殺し、そして自分が殺されていてもおかしくないほどの暴力が必要な部分では濃密に描写されている。
意図的にそういう展開を避けていたようにも思えるQシリーズやαシリーズと比べるとその差は明確でそういったノリで読もうとする人がいるならば、そこは覚悟が必要。
一方でキャラクターの活かし方が相変わらず上手い。ヒロイン・玲奈はまたしても容姿端麗な美少女であるが、彼女の過去の重さを軸にしながら上手く玲奈を右往左往させている。
彼女が探偵の探偵をさせるためとはいえやや過酷な過去を背負わされ過ぎだとも思うが、そこは今後の展開次第でどうにでも出来るとも思うので、松岡さんの腕の見せ所になるだろう。
一巻の彼女の相棒である峰森琴葉(みねもり・ことは)も、19歳という若さ・青さを出しながらもウザさを出していないのは凄いところ。どうしてもこういうキャラが出ると若さが青さとなってそれが読み手に取ってウざさになりかねないところだが、そういうのがまるでない。
またほとんど恋愛要素を感じなかったのもQシリーズなどの違いだと思う。個人的にはこのシリーズならそれでいいと思うけどね(恋愛要素を入れるとそれ以外のシーンとのギャップが酷そう)。玲奈の美貌を考えれば彼女がそれを逆手に取って~というのも考えられるが、そうさせなかったのは何かの意図や思惑があるのか、それとも単純に彼女にその気がないのかというのは今後の楽しみにしよう。
評価は、★★★★(4点 / 5点)。Qシリーズも一冊目からいきなり怒涛の展開だったが、それに負けず劣らずの展開力。二か月連続刊行だったので前後編だと思ったが、一巻だけでも十分区切りがついていて楽しめる。
欲を言えば、終盤での黒幕を出し抜くシーンはそれを匂わせるもうワンクッションやツークッションくらいの展開の余裕は欲しかったところか。時間的に考えてもあまりに突発的な気がした。
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