朧月市役所妖怪課 河童コロッケ

≪あらすじ≫
この朧月市は、妖怪たちを封じ込めるために作られた自治体なんだよ―亡き父の遺志を受け継ぎ、晴れて公務員となった宵原秀也は、困惑した。朧月市役所妖怪課。秀也が身を置くことになったその部署は、町中に現れる妖怪と市民との間のトラブル処理が仕事だというが…!?公務員は夢を見る仕事…戸惑いながらも決意を新たにした秀也の、額に汗する奉仕の日々が始まった!笑顔と涙、恋と葛藤の青春妖怪お仕事エンタ。
(単行本裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
タイトル買いをした一冊。たまにはこういうのも良いかと思って手に取ったのだが、奇しくもいつも読んでいるライトミステリーな趣きがある作品だった。雰囲気で感じ取ることが出来るようになったのかな?(笑
まぁ、それは冗談にしても内容は先に挙げたようにライトミステリー。妖怪が起こす謎に対して、アシスタントとして派遣された秀也が、公務員仕事・お役所仕事が体に馴染んでしまった先輩たちとは違った青臭い視点によって謎を追う、という感じ。
設定的には漫画『夜桜四重奏』に近いかな。妖怪との共存、公務員的な立ち回り、対立する組織、お役所的な上層部などの感じは、キャラの在り方などの変化はあるものの基本的には大きく似通っている。
構成は分量的には一冊で二つの謎を追う、という感じで良い意味で小さく纏まっていて読みやすい。妖怪に関しては詳しくないので出てくる妖怪がしっかりと調査された末のものなのか、あるいは架空的要素が混じっているものなのかは分からないが、どちらだったとしても上手く起承転結の物語に組み込まれている。
妖怪が出てくるもののメインは公務員、お役所としての仕事っぷりだろう。それに完全に染まっている諸先輩を前に、同じく公務員ですでに他界している父から「公務員が夢を見ない自治体に未来はない」という一言を胸に刻んでやってきた秀也がその現実に失望しながらも、自分はどうするべきかと立ち向かっていく。
言ってみれば現在の公務員における「お役所仕事」の否定や批難ともいえる。もちろん、働いている同僚には同僚の言い分もあるし、それがちゃんと正論というか一理ある感じになっている。
人手不足や資金不足なんかを抱えながらもそれなりに平等に頑張る妖怪課のメンバーたちだが、市民たちの不満がゼロではない。市民たちは税金払ってんだからサービスしろよと言わんばかりの態度で、この辺りもモンスター化している市民を良く示しているともいえるのかもしれない。
さらに最後にはそこに入って来る法律がグレーゾーンの民間会社という存在も、民間の意識や感覚を取り入れるべきだと騒いでいる現在らしい話題だろう。
その辺含めて、まぁ現代の問題を妖怪を搦めて描写している、という点は面白いとは思う。
ただ、物語としてはもう少しうまくまとめられなかったのかな、とは思ってしまう。オムニバスのような形だった一話、二話目はともかくその次からいきなり長編突入のような展開。実際に続編も出て居るようなので、ある程度そこを見越した形での執筆だったのだろうが、手に取った人が必ずしも次の巻を読んでくれるとは限らない。
次の巻にも手を伸ばさせるには相応の魅力を詰め込まないといけないのだが、それがあったかというとあまりそれは感じなかった。
主人公が妖怪に憑かれやすい体質の意味も、父親の死ぬ間際の謎のひと言も謎はこの巻で明かされてしまい「この謎、どうなっているんだろう」と思って次の巻に手を伸ばす必要性がないのだ。確かに最後には妖怪を「封印」して共存しようとする市政側と対立し、妖怪を「退治」いて人間の世界にしようとする民間側が出て来たのだが、それも突発的な感じ。
それをするなら例えば、妖怪たちは人間に擬態して実はこの市の経済の半分近くを担っているだとか、そんな感じの必要性もあるし、妖怪だからと言ってすべてが悪いわけではないから「共存」の道を選んでいるんだーという流れになるならまだともかく、実際にはそうではないので「え? 退治しちゃいけないの?」と。
舞台としては結界が張られた朧月市になっており、その市外に出るときには妖怪に関する記憶が消えるということによって、擬似的に物語の舞台を「陸の孤島」とすることでこじんまりとした舞台を作ったはずなのに外部からやってきた(?)民間の退治会社やらなんやらと、その舞台が意味をなくすように風呂敷を次々に広げて規模をデカくしてしまっているのは、私は大きなマイナスだと思う。
評価は、★★(2点 / 5点)。序盤のオムニバス形式で妖怪を出してその謎を解いて、その過程で秀也の青臭さというか理想が、そういう理想を捨てて現実を全てにしてしまった同僚公務員たちが少し変わっていく、みたいなストーリーだけなら作風も良いし上手く纏まっていて星4つや5つくらい挙げても良いと思ったが、終盤にいきなり規模が大きくなり、さらに続巻を見越しているためこの巻では物語に区切りすらつかないという構成のマズさが目立った。
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