霧越邸殺人事件<完全改訂版> 下巻

≪あらすじ≫
美の女神が司る“死の館”から、貴方はもう、出られない―。続発する第二、第三の殺人。執拗な“見立て工作”の意味は?真犯人は?動機は?邸内に潜む“何か”の正体とは…?『Another』の綾辻行人が智力の限りを尽くして構築した、もうひとつの代表作―『霧越邸』は本格ミステリの様式美を究め、突き抜け、そして永遠の伝説となる!!語り下ろしインタヴュー「霧越邸秘話」収録の“完全改訂版”。
(単行本裏表紙より抜粋)
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≪感想≫
霧越邸殺人事件<完全改訂版>の下巻。
全体的には設定の勝利、というのが一番言葉としては適しているような感じがする。設定を綿密に作り込み、それをベースにミステリーを構築し、謎解きの段階になってその設定を公開することによって読者を驚愕させることで、それをミステリーの謎解きとしている、という感じ。
真犯人に関しては、割と中盤くらいでちょっと気にかければ読者は気付くことが出来る。いや、敢えて気付けるように仕向けてある、というべきなのかもしれない。
その辺りの分かりやすさと、物語全体の謎っぽい部分の難解さとで上手くバランスを取っているのだろう。
作品としてはやはり最後の真犯人と主人公とのやり取りや、その後の主人公のエピローグが綾辻さんが描写したかった部分なんじゃないか、と思った。
というよりも、たぶんこのシーンを描きたいからこの作品が出来たような部分も少なからずあるのだろう。作家として自分の作品に自分の意見や意思を注ぎ込みメッセージとして発信するというスタイルは当然あるだろうしね。
死をある種の永遠と考えた真犯人。死ぬことによってその美は永遠のものになるらしい。確かに時間が経過すれば人は老いるし、物も劣化していく。
だがしかし、人は死ねば死後硬直が始まって朽ちて行く。物もそうだ。人が住まない家は傷むのが早い、というのは決して嘘ではないのだ。真犯人は殺すことによって美を永遠のものとして切り取ろうとしたのだろうが、その傍からその死体は人が老いていくよりももっと早いペースで朽ちて腐っていくということに目を背けて、だ。
とまぁ、主人公は全く違う切り返しをしたが私自身はこれを読んだ時に真っ先に反論としてそんなことが頭をよぎっていた。
評価は、★★★★(4点 / 5点)。さすがというべきか練り込まれた設定とそれによるミステリーは素晴らしいのひと言に尽きる。エピローグも余韻がしっかりしていて読了感も良くて作品の完成度の高さを感じる。ただし、真に推理をしたのがポッと出のキャラクターだったのがやや苦しいし、欲を言えば主人公がちゃんと推理をして欲しかったところ。そこが-1点かな。
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