櫻子さんの足下には死体が埋まっている 冬の記憶と時の地図
- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[櫻子さんの足下には死体が埋まっている]

≪あらすじ≫
北海道・函館。僕、正太郎と、骨と謎を愛するお嬢様・櫻子さんは、かの街に旅行することに。と言っても、楽しむためだけじゃない。櫻子さんが敬愛する、法医学者の叔父さんが追いかけていた、ある事件の調査のためだ。その事件と、僕らが解決した事件に共通するのは、蝶の形をした骨・蝶形骨。時を越えた謎に挑む僕らだけど…。凛として孤高、なのに無邪気な櫻子さんの魅力が伝わる掌編も収録。大人気ミステリ、シリーズ初の長編!
(単行本裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
あらすじ通り、シリーズ初の長編。事件としては、櫻子さんが敬愛する叔父が追っていた事件の解決のために奔走する、というもの。
ただ、シリーズとして決着をつけるつもりはまだないからなのか、そこの辺りはかなり曖昧というかあやふやにされてしまった。自ら殺人を犯してか、あるいは言葉巧みに殺人を誘発させてか、はたまた両方なのかは分からないが、蝶形骨を収集しているという「画家」への繋がりを求めての旅路だったはずが、気が付けば叔父が追っていた殺人事件の真実を暴くだけで結局「画家」への手がかりらしい手がかりはゼロ。何のためにわざわざ長編を組んだのだろう? 四巻で「どういうことなのか」と思っていた疑問――画家については結局ほとんど触れられずじまいで、内容としては肩すかしもいいところ。
ミステリ要素というか、トリックに関してもちょっと無理があるような気がした。まぁ、よほどうまく立ち回っていたのだろうが、自殺の可能性が高いとはいえ死んだ被害者が同居していた妹、なんて真っ先に疑われる立場だろうに……。尊厳死のためとはいえ殺人を犯した姉も結局人となりらしいものは不明なままだし、妹の方も妹の方で鬱憤がたまっていたのはともかくそこから殺人に至るきっかけというのがあまり感じなかった(というか、そもそも良い年していただろうに、そんなに嫌なら同居しなきゃいいのに。その辺も詰めが甘い)。
山路の兄もどことなくご都合的な感じで、おまけに結局行方は分からないまま。これなら事件を追っていて真相に辿り着いて殺された、とかの方がベタでも良かったんじゃないだろうか。それともまだ彼には何か重要な役割があるのか?
その点で言えば真犯人も自殺なのか事故死なのかは分からないが、死なせてしまった点も後味が良くない。「悪い」とは思わないが、そこで突発的に打ち切られた感じがしてモヤモヤしていて完全に消化不良。
キャラクター的には言うまでもなく正太郎少年が相変わらずその場その場で思ったことを口にするだけの小学生みたいな少年だった。そもそも自分から無理を言って捜査旅行に同行しているのに、悪趣味だとかなんだとか不満ばかりで「じゃあ行かなきゃいいのに。巻き込まれたならまだしも自分から願い出て、捜査の内容からもこうなることは想定内なのになんでこんな文句ばっか言ってるんだろう」と思ってばかりだった。
シリーズ的には「骨が大好きだけど常識外れの櫻子さん」と「巻き込まれた、一般的な常識と価値観を持つ正太郎少年」という構図なんだろうけど、なんだか巻を重ねるごとに非常識なのは櫻子さんよりも正太郎少年のようにしか見えないんだよね。自分から首を突っ込んでおいて文句を言うというのもそうだし、基本的には彼の視点で語れる物語なので場面場面でいちいち入って来る彼の独白が、「なんだかなー」と。
なら読まなきゃいいんだけど、そこはそれを補って余りある櫻子さんのキャラクター力、といったところなのかもしれない。まぁ、シリーズ読んじゃうと出ているのは読まずにはいられない、ってのもあるのかもしれないけどね。
強いて正太郎少年のいいところを挙げるとすれば、それこそ小学生みたい、なことか。具体的には恋愛面。鴻上の好意に気付いていないようだし、櫻子さんとの接し方も時折彼女の肉体で興奮しそうにはなっているみたいだが基本的には思春期を迎えていない男の子のよう。だからこそあの関係なんだろうし、そこはメリットなのかな、と。
彼がよく「ソウタロウ」に間違われるのも全体的に幼いせいなのかもしれないね。
評価は、★☆(1.5点 / 5点)。わざわざ長編にする意味があったのか疑わしいほど中身のない一冊。延々と続いた捜査がどうなるのかと期待したが終盤は足早に駆け抜けてしまった感じが強く、中盤まででフラストレーションを溜めさせながらそれを解消するカタルシスを感じられなかった。短編で前後編くらいで十分、あるいはもっと膨らませてちゃんと画家にまで辿り着くかくらいはして欲しかった。
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