櫻子さんの足下には死体が埋まっている 蝶は十一月に消えた
- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[櫻子さんの足下には死体が埋まっている]

≪あらすじ≫
北海道・旭川の冬は長い。僕、正太郎と、骨を偏愛するお嬢様・櫻子さんは、雪が降る前に森でフィールドワークをすることに。成り行きで、担任の残念イケメン・磯崎先生も一緒に、森へ入った僕たち。そこに、先生のかつての教え子が行方不明だという報せが届く。しかも彼女の親友も、数年前に失踪していて…(「蝶は十一月に消えた」)。そこに骨がある限り、謎を解かずにいられない、博識ヒロイン櫻子さんの大人気ミステリ!
(単行本裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
櫻子さんシリーズの四作目。本当は刊行順で三作目の『雨と九月と君の嘘』を読みたかったのだけど、近所の書店と仕事場近くの書店、さらには乗換駅のエキナカの書店にもどこにも三巻だけ置いてなかったんだよね(苦笑 なんで仕方なくこちらから。
そしたらなんか犬とか増えてるし(笑
目次の次のページは登場キャラのイラスト付き。これじゃラノベと変わらんな……まぁ、表紙のイラストからして今更かよという指摘だろうがw というか、このキャラ紹介、本当に必要なんだろうか?
一話目は「猫はなんと言った?」という作品。動物虐待的な部分もあるでの苦手な人は注意が必要。動物、とくに猫が好きなら想像しただけで嫌悪感がある話。ストーリーとしては、割とオーソドックスなミステリータイプ。なので真犯人はあっさりと分かるかな。そうした分かりやすさが、扱っているテーマというか犠牲になった猫とかを思うと逆に良かったのかもしれない。
次の「私がお嫁に行く時に」というのは百合子と櫻子さんのエピソード。正太郎少年を交えないエピソードというのはこの作品では珍しい部類に入る。いろいろとあるが結局のところ、結論は祖母との思い出がある百合子自身にしかわからない、というのはちょっと「逃げ」な終わり方に見えた。もっと櫻子さんなら鋭そうなひと言や指摘があっても良かったと思うので、そういう意味で「らしくない」エピソードかも。
最後は表題サブタイトルにもなっている「蝶は十一月に消えた」というもの。そのせいなのか作者の痛烈なメッセージがしっかりとある。それぞれの家族の形から始まり、何やら因縁めいた相手らしき影が見え隠れ(この辺りはシリーズ作品ならではというところか)、最後は二つの作者の自論がある。
一つは探偵について。綺麗ごとを並べ正しいことをしているが、その実、自己顕示欲を満たすために他人の秘密を暴いて公言する。そのグロテスクさは自分と変わらない。それが死んだ骸(むくろ)であるか、生きた人間であるかの違いがあるだけで、というのは的を射ていると思った。
「正義」については以前の巻でも題材にされ、正義を貫いた結果、周囲は大損害を被ったというエピローグのついたエピソードもあったが、時として正義や正論を貫くことはそうでない以上の犠牲が出る、ということなのだろう。それでも正しいことをするのか、あるいは犠牲を出さないため正論を引っ込めるのかはその人の価値観や信条というのがあるのだと思えた。
もう一つは、遺族について。「遺族にとって事件解決とは死んだ人が自分たちのもとに戻ってきて元通りの生活をすることだ」「被害者遺族は一生遺族なんだ」という言葉は重みがあった。考えてみれば当たり前のことだ。でも、どうしてもそのことを第三者の部外者としては失念してしまうことも少なくない。犯人が捕まり裁判にかけられ刑が確定すれば事件は解決……ではないのだよね、遺族からすれば。いや、加害者やその家族からしても同じことなのだろうけど、文字通り一生消えないものを互いに背負って生きて行かないといけないということなのだろうな、というのをわずかな数行のセリフの中で感じたし、たぶん作者さんはそんなことを自論として持っているんじゃないかな。
ストーリーとしてもオチは良かった。自殺に見せかけて実は他殺、っていうのは良くあるけどこのエピソードでそれを持ってくるとは思わなかった。
ただ、伏線のためとはいえ蝶形骨を殺して奪った相手の謎を引っ張ったままだしなぁ、とはあるんだけどね。
評価は、★★★(3点 / 5点)。伏線だから仕方ないのだけどやや不完全燃焼な終わり方(エピローグ含め)や、一話目は生理的にダメそうな人も多そうなど、全体的に今まで以上に人を選ぶ内容や結末だったかなと思う。
Comment
Comment_form