特等添乗員αの難事件IV
- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[Qシリーズ(松岡圭祐)]

≪あらすじ≫
ラテラル・シンキングを駆使し、電車から豪華客船まで0円旅行を実現してしまう謎の韓国人美女が現れた。その名もミン・ミヨン。観光業界としては見過ごせない一大事に、白羽の矢が立ったのは同じ思考を持つ浅倉絢奈だった。ところがその絢奈は、壱条那沖との新居探しや恋のライバルに翻弄され…。ハワイを舞台に娯楽性満点の「人の死なないミステリ」最新傑作登場。書き下ろしαシリーズ第4弾!
(単行本裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
Qシリーズの外伝である『α』シリーズの第四弾。あらすじにあるように、恋のライバルの登場に加えて、絢奈と同等のラテラル・シンキングの持主の登場と、ネタ的にはだいぶ面白そうな要素が揃ってはいる。
しかしながら誤解や反発を恐れずに言うならば、ストーリーとしてはこれまでの三巻に比べて劣ると言わざるを得ないのが、本音だ。
まずネタとしての要素は多いが、そのどれにも斬新さがない。恋のライバルの登場は、それ自体はどこの作品でも使われているような手ではあるが、登場の仕方やその後の展開が本編の『短編集I』で悠斗の昔の恋人として出て来たゲストキャラと同じといっても過言ではない(まぁ、今回の瑠華の方がより過激ではあったが)。シリーズ作を読んだ人間からすると、二番煎じは否めない上に、今までの巻以上に那沖の優柔不断さが目立った。那沖が優柔不断な態度を取った点も、本編の悠斗の態度と酷似していてその辺りの差別化も出来ていないことも萎えてしまった。
また、ミヨンというキャラクターに関して言えば本編で凜田莉子のライバルとして出て来た雨森華蓮、あるいは同様の思考法を用いているという点で言えば京都での兄弟子とのエピソードなどに起因して同様の要素を外伝でも再利用したと考えられる。それ自体は悪いアイディアではないと思う。莉子のロジカル・シンキングに対抗した華蓮たちと同じように、絢奈のラテラル・シンキングに対抗するライバルがいても良い。
ただ、ラテラル・シンキング同士のバトルは、要するに相手をいかに出し抜くかのみに限定されてしまっている上に、先に上げた恋愛要素を絡めてしまったために、描写の絶対数が少なくて中途半端に終わっている。本編のように恋を描くか、ライバルと呼べるようなキャラとの対決を描くかで分けた方が良かったのではないか。肝心のラテラル・シンキングの描写も不足しているように見えて、能登が劇中で指摘したようにこれでは、一定の法則や規則がある中で働かせる水平思考ではなくただの思い付きにしか見えない。
さらにそうしたネタ以外にも、那沖が絢奈をある意味軽視している言動の連続は結果として絢奈の方がそれを受け入れて終わる(しかも絢奈がその結論に至るエピソードの要素はあまりに軽くて見落としてしまいがちなほど)という、風呂敷の閉じ方としては最悪の一手だったように思う。新居の問題含めて、那沖自身、那沖と絢奈の関係、あるいは壱条家全体含めての問題点を序盤に提示しておきながら何一つまともな経路を経ての解決はしておらず、作者が最後に勝手に「解決した」というだけでは何の説得力もない。
キャラクターは、能登先生が唯一の良心だった、ということくらいか。彼の能登への鋭い指摘だけが読者からすれば「よく言ってくれた」と言えた部分。
ゲストキャラ二人はまさかのカップル成立という展開に唖然とした。尻軽すぎるだろ、この二人。というか、この二人をくっつける必要性がどこにあったのかが疑わしい。
自分の杓子定規だけですべてを図り、そこから外れたものを害悪と決めつける親娘の登場に対して、絢奈が、そして那沖がどう対抗して自分たちの関係を認めさせるかが、ある意味で序盤を読む限りの見せ場だったはずなのにその見せ場はこんな変な展開のせいで完全に喪失してしまっているし……。
評価は、★☆(1.5点 / 5点)。序盤での不和や不安を高めて終盤でカタルシスを得る、という手法だったのだろうが終盤でカタルシスを得るような展開は作れず。既刊三巻分と比べると、ネタは本編流用、ストーリー構成も詰め込み過ぎていてどれもこれも中途半端と、あらゆる面で大幅に見劣りする粗雑な出来と言わざるを得ない。
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