特等添乗員αの難事件II
- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[Qシリーズ(松岡圭祐)]

≪あらすじ≫
水平思考──ラテラル・シンキングの申し子、浅倉絢奈。きょうも旅先で発生するトラブルを華麗に解決していたが……予期せぬ事態に遭遇してしまう。聡明な絢奈の唯一の弱点があきらかになった。そして姉との埋まらない溝に加え、恋人のはずの壱条那沖との関係にもヒビが入り、公私ともに絶不調! 香港へのツアー同行を前に、絢奈は閃きを取り戻せるか? 人の死なないミステリ最高峰、書き下ろしαシリーズ第2弾!
(単行本裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
外伝シリーズ『αシリーズ』の第二巻。
まず良かったのは、先の第一巻と比べて本編シリーズの莉子や悠斗、葉山などが全く出てこなかったことだろう。もちろん「出て来たから悪い」と直結して考えるつもりはないが、やはり浅倉絢奈を主人公としたストーリーとしては、読者としてあまりに慣れ親しんでしまった凜田莉子や小笠原悠斗の名が出てこない方が彼女に没入出来るような気がするのだ。青臭い台詞で表現するなら、絢奈が本編の莉子や悠斗の名に頼らず自立出来ていると感じることが出来る、といったところか。
ストーリーは、ラテラル・シンキングを身に付けたことでニートから脱却してハッピーエンド……と、そうは簡単な幕引きにはならなかった、という部分がスタート。一度閃けば無敵に見えるが、裏を返せば閃かなければなにも得られない未成熟なラテラル・シンキングと絢奈はどう向き合うのか。住む世界が違う那沖との関係の在り方。尊敬の対象の姉との確執。そうしたものを上手く一冊に纏めている。
一冊に纏めているのでやや都合がよすぎる部分もないわけではないが、それが目立つのはせいぜいラストのエピソードくらいだろう。すっかり忘れていた冒頭の卓球サークルを装った窃盗犯の逮捕は、言われてみれば確かに松岡さんならそこまでちゃんと解決してENDにするよなとは思いつつ、その事件から相応の日数が立っていることを考えるとちょっと非現実的かな、と。
でも、それ以外は本当に良く纏まっている。那沖との関係性はやや描き込みの不足さを感じずにはいられないというか、那沖が結局どうして絢奈があの場で怒って出て行ったのかを理解してないんじゃないかと想ってしまうのだが、まぁそこをいろいろとエピソードと、絢奈のラテラル・シンキングの見せ場で補って見せた。
改めてラテラル・シンキングは描くのがきっと難しいだろうな、と感じる。発想の柔軟さ、あらゆる可能性を模索する水平思考とはいうが描き方を失敗すれば、主人公がすべてを知っている全知の神のようにすら映ってしまい、読者をきっと萎えさせてしまうことだろう。そうならないのは、文章力の巧みさと物語の構成量の巧さが成せる技なんだと思う。本家のQシリーズよりも書き手の技術として遺憾なく腕を振るっているのはこっちなのかもしれない。
キャラクター面では、絢奈のポジティブさというか前向きさが莉子にはない部分かな、と感じた。とにかく落ち込んだら立ち直りに時間がかかるネガティブな莉子とは違っている。一巻ではまだネガティブな部分もあったが、この巻くらいからはもうそういったところはあまり見受けられない。前向きに突き進む彼女の姿は、観ていて清々しい。
また彼女がピアスを嫌ってマグネットピアスにしている点も面白いところだろう。確か、莉子もピアスはしていなかったはず。松岡さんの他の作品は分からないが、こうも連続して主人公兼ヒロインがピアス(身体に穴をあける行為)をしていないということは、松岡さんなりのこだわりなり、自論なりがこの辺にもしかしたらあるのかな、と思った。
あとは絢奈の姉の乃愛の存在か。最初は嫌っていたのに窮地を救われたら仲良くなっていく、というのはお約束展開ではあるが、行きだけで出番が終わりかと思いきやそうではなかったし、現職の内閣官房長官やその妻相手にも堂々たる振る舞いと度胸はどことなく絢奈を彷彿とさせ、二人が姉妹であることを強く暗示しているようにも思えた。
評価は★★★★★(5点 / 5点)。起承転結がハッキリしていてストーリーも分かりやすい中で随所にラテラル・シンキングの発想が光る。
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