特等添乗員αの難事件I
- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[Qシリーズ(松岡圭祐)]

≪あらすじ≫
掟破りの推理法で真相を解明する水平思考──ラテラル・シンキングに天性の才を発揮する浅倉絢奈、22歳。新人ツアーコンダクターとして国内外を飛びまわる彼女は、旅先で発生するトラブルから難事件まで、予想もつかない手段で瞬時に解決する。中卒だった彼女は如何にして閃きの小悪魔と化したのか? 鑑定家の凜田莉子、『週刊角川』の小笠原らとともに挑む知の冒険、ここに開幕。人の死なないミステリ最高峰、αシリーズ第1弾!
(単行本裏表紙より抜粋)
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≪感想≫
Qシリーズの外伝にあたる『α』シリーズの一冊目。時期的には、ちょうど莉子と悠斗が宝石鑑定大会みたいなのでロンドンに飛んだ前後ってところかな。
まずは単純に、莉子・悠斗の出番が思っていた以上に多かったことに驚いた。「外伝シリーズ」という印象を持っていたので、名前くらいは出てくるだろうし、もしかしたらニアミスくらいはするだろうとは思っていたけど、本編シリーズで最初に出て来た時から結構な頻度で作中では顔を合わせていたようだ。それもニアミスどころの話ではない。
ストーリーとしては、莉子が万年最下位の落ちこぼれから凄腕鑑定家への道を描いた『事件簿』I・IIと同じように、中卒引きこもりだった絢奈が「特等」とまで言われる添乗員になるに至るまでを大雑把に描きながら彼女が難事件に臨む、というところ。
作中で莉子の「ロジカル・シンキング」と対をなす存在として描かれる「ラテラル・シンキング」は、その中でもチート的存在だと言われるが、実際にはストーリーを描く側にとってもチートだと思った。莉子が主役のQシリーズのように証拠を出さなくても、勝手に絢奈は結論に辿り着いてしまうのだから。
その点で描きやすいのかな、とは思った。ただ、それをストーリーとして魅せ、ラテラル・シンキングに頼り過ぎて読者を萎えさせないようにするのはかなりQシリーズ以上にバランス感覚を求められるような気もする。
キャラクターとしては、まず絢奈の存在。莉子とはまた違ったポジティブさを持ちながら、莉子のように家族や親族に愛されて育ったわけではないという事実が予想以上にハードに読者へ訴えかけてくるし、同時に絢奈というキャラクターのポジティブさが「軽薄さ」に変わらない良いアクセントになっていた。もちろん、それは「壱条那沖」というヒーローが、読者の鬱憤を代弁するかのように絢奈の母親や姉にぶつけてくれたシーンがあってこそだと思うけどね。あれくらいの逆転劇というか、因果応報みたいなところがあるのは良かった。
まぁ、その直後にいきなり告白に繋がったのは驚くがw でもまぁ本編では莉子と悠斗がいつまで経っても先に進まないわけだから、外伝の主人公とヒロインくらいはサクサク進んでくれた方が読んでいる側としてもなんか安心するけどね(笑
莉子、悠斗も外伝の割に登場数は多め。莉子に関しては、かなりの窮地だったわけだがその辺はどうなんだろうね、とはちょっと思ってしまった。絢奈を活躍させために莉子を落とす必要があったのかな、と。でもまぁ、こうした一件の積み重ねが本編で、莉子がロジカル・シンキングに限界を感じる要因になったのかもしれないけど。
評価は★★★★☆(4.5点 / 5点)。外伝らしく莉子に似た境遇なら対極の武器を手にしたヒロインの活躍というのは設定が抜群に上手い。ストーリーも起承転結とサクセスストーリーがしっかりと両立している。惜しむべくは、やはり外伝と言割には莉子と悠斗という本編の主役二人が思いのほか関わり過ぎてしまったのが、個人的には少しだけマイナスに映ったことくらい。
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