万能鑑定士Qの謎解き
- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[Qシリーズ(松岡圭祐)]

≪あらすじ≫
卓越した鑑定眼と論理的思考の持ち主、凜田莉子23歳。幾多の“人の死なないミステリ”に挑んてきた彼女が、『週刊角川』記者の小笠原悠斗とともに、最大の謎に直面する。大陸から怒涛のごとく押し寄せる複製品の山。しかもその製造元も、工場の所在も、首謀者もあきらかではなかった。仏像、陶器、絵画にまつわる新たな不可解を、莉子は解明できるか。Qシリーズ第20巻、Q&αシリーズ第25巻記念、最高傑作登場。
(単行本裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
ようやく現在刊行されている最新刊に追いついた。一応、本の方では八月末に新刊の予告もあったが、こちらはすでに作者である松岡さんのホームページなどで延期になる旨が伝えられているので、現時点ではこの『謎解き』が最新刊であると同時に最終巻になっても不思議ではないというわけだ。
実際、それくらい完成度というか読了後の感覚は良い。今回もまたこの作者さんらしくエピローグはほとんど載っていないが、それが逆に良い余韻を残している(余韻が良くなるような終わり方で筆を見事に止めている)。最後のシーンは、それこそ映画やドラマで映えるような終わり方ですらある。おそらくまだ続巻があるだろうから、こういう風に言ってしまうのはどうかとも思うが、『事件簿』シリーズを終えてからの中における集大成と呼んで差し支えはないだろう。それこそ最終巻でも問題ないほど。
莉子が取り扱う鑑定と事件は巻を増すごとに巨大になっていく。私を始め読者の方の中にも下手に規模が膨れ上がることを必ずしも絶対的な善と捉えている人ばかりではないと思うのだが、そうはいっても続編になれば過去作よりも新しいアイディアとトリックで、今まで踏み込まなかったジャンルを鑑定し、そして規模が大きくなっていくことが常なのだろう。フリーランスの鑑定家として、ちょっとした違和感から首を突っ込んでいた莉子がちょっと懐かしい。
だから、私が今後このシリーズで不安を覚えるとすればそこだけかもしれない。すでに国家間の問題を取り扱ってしまった。モナ・リザなどの世界規模のことも裏を返せばモナ・リザは世界と言ってもそれは絵画に興味を持つ業界に限定されていたし、国家間のやり取りもごく一部だった。しかし、それが今回はリアルに描写し、現実の社会的問題とリンクさせながらフィクションとして仕上げたために、大々的な取扱いとなってしまった。現に、現職の総理大臣などの名前が挙がり、さらに劇中で莉子は対面を果たし、賞賛を受けるほどにまで彼女の存在は肥大化してしまった。
そう、肥大化「してしまった」と表現するのが適切だろう。
マスコミにも大きく取り上げられ、それは過去のグラビアやらモナ・リザ事件などの比ではないことは明らかだ。その状態でその「次」となるとどういう規模になってしまうのか。それこそ第三次世界大戦を未遂に防ぐとか、宇宙に進出して宇宙物質を鑑定するとか言い出しそう(苦笑
これが最終巻だったら最後に出せる限界ギリギリの規模かな、とも思わないこともないのだが、たぶんこれが最終巻ではないしね。そこだけが不安要素かな。まぁ、この巻に関して言えばそんな不安要素は関係ないがw
作風としては珍しく、作家が小笠原悠斗の名を借りて読者に挑戦状を叩き付けている。莉子がいつもサクサクと謎を解いてしまうのでただ「読んでいる」だけで良い読者に対するアクセントなのか、嫌味なのか、それともただのアイディアなのかは分からないが。
素直に言うと私はただ読んでいるだけなので犯人はさっぱり分からなかった。まぁ、その挑戦状を読んだ一秒後には次のページをめくって読み始めていたがw
分かったのは最初から鑑定した物が二つあったことと合流ポイントも二か所あったことくらい、か。まぁ、それは最後に至る前にあっさり明らかになる程度のものだったので、たぶん誰もが想像出来てしまうことなんだろうし、そう考えると真面目に考察するチャンスだったのかなと惜しく思うし、たぶん考察しても私程度では全ての情報が本の中にあったとしても真相には辿り着かないだろうけどなとも思ったけどw
さてキャラクター面でいえば、いよいよ悠斗は莉子に告白。莉子もそれを受けた。その後、実際にどうなったのかは先に上げたようにエピローグが書かれていないので不明だが、ようやくここまで来たかという感じだ。
私がこれが最終巻でも良い、と思っているのはこうした事情もある。つまるところ、今まで描き続けながら曖昧に濁し続けた恋愛事情もようやくこれで一区切り、ということ。
恋愛を取り扱うのはとても難しい。それが人気作ならなおのこと。なにせ恋愛は成就してしまえばそれ以上の展開というのは描きづらい。描けても、新たな恋のライバルを出したり、あからさまな障害的展開を出したりと蛇足になりがちで、かといって成就させまいと曖昧に濁し続けるといずれ読者に見離されてしまう。
個人的にはQシリーズで20巻、αシリーズ含めて25巻もかかっているわけで見離した読者も少なからずいたんじゃないかとは思っているが、それでも作者としてちゃんと一つの区切りと結末を描けたのは大きく評価したい。いつも通り曖昧に濁すことも出来たはずだ。それをしなかったのは、作者にとってもこの『謎解き』がいろいろな意味で集大成であり、最悪これが最終巻になっても良いくらいの完成度だからだろう。
そして、これで悠斗と莉子の恋愛劇は終わりである。無論、続きは書けるだろう。先に上げたように新たなライバルや障害をつければいくらでも描けるし、それこそ今度は結婚まで(あるいは破局まで)作品を引っ張るという手もないわけではない。ただ、今まで「口にしなくても想いは通じ合っている」で終わっていた二人はその通じ合っていると信じていた想いを口にし確認したわけで、恋愛劇としてはこれ以上の展開は見込めない。いや、見込めないというか見込めてしまうような恋愛劇だと波乱が多すぎて、なんか不安になる(苦笑
まぁ、続巻が出れば描かないわけにはいかないだろうから、二人の初心な(?)恋人生活を描くこともあるかもしれないが、それは「エピローグ」ではあっても「恋愛劇」と呼べるようなものではないだろう。
続巻がどうして延期になっているかは分からないが、もしかしたらこの辺が作者さんにとってモチベーションを下げていたのかも? 邪推に過ぎないけどね。
とりあえず、最初に述べたようにQシリーズ、刊行している分は全て読破である。これからαシリーズに入りますw
評価は★★★★★(5点 / 5点)。各々のキャラクターの成長が感じ取れ、物語も現実世界の問題を上手く取り込んでいて結末に関しても作者のメッセージ性がしっかりと出ている。ミステリー性も十分で、あらゆる面でQシリーズでもトップ3に入る完成度と言っていい。
NoTitle
本作は色々とスケールが広がり、ついに安倍総理まで登場(笑)。
莉子と総理の会談まで実現と、おおっと思った巻でした。
次回以降の「特等添乗員α」の感想も期待しています。