万能鑑定士Qの推理劇IV
- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[Qシリーズ(松岡圭祐)]

≪あらすじ≫
「万能鑑定士Q」に不審者が侵入した。無残に荒らされた事務所に貼られた何百何千という物体。それは、かつて東京23区を覆った“因縁のシール”だった!さらに波照間島に帰郷を勧める父が現れ、『週刊角川』を揺るがす盗作問題が起きるなど、凛田莉子を公私ともに激震が襲う。小笠原悠斗は莉子の窮状を救うことができるのか?浅倉絢奈、雨森華蓮も登場する特別編。すべての決着は波照間島でつく!!「Qの推理劇」シリーズ第4弾。
(単行本裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
『推理劇』の第四弾にして最終巻。しかし、語弊や誤解を恐れずに率直な感想を口にするならば、なんて出来の悪い、というところか。『事件簿』の最終巻も出来が悪かったが、それと団栗の背比べレベルでしかない。
内容はコピアがいよいよ莉子を排除するために動いた、というのが大まかなあらすじ。最終巻ということもあってか過去のキャラクターが結構出てくるものの、次のシリーズがすでに決まっていて事実上の最終巻ではないせいなのか、内容がとにかく薄っぺらい。見どころはそれこそオールスター総出演的な部分だけか。
なによりも良くなかったのは、莉子が波照間島に帰ってからの展開だろう。悠斗へ切り出した別れ話、コピアの登場、コピアの目的、そしてエピローグ。どれをとっても良くない。面白くない、のではなく、出来が悪い。
散々ラスボス的なところをこれまで伏線で見せてきたコピアだが、その割にはだいぶ小者臭が強く、とてもではないが『推理劇』でラスボスを務めるには荷が勝ちすぎていて力不足は否めない。そもそも、莉子を追い詰めて精神的に挫折させることが将来的に自らの黒字に繋がると言っていた(つまるところ、コピアはこの時点では今回の莉子を鑑定家として抹殺する一連のことは現在の赤字よりも将来的な黒字を観ていたはずだ)のにも関わらず、結局莉子の件でも利益を求め黒字を求めて足が付いた。
これまで散々警察に尻尾を掴ませなかったとは思えないほどの体たらくと稚拙すぎるミスだ。ラスボスのはずのコピアがあの程度の小者では、当然シリーズを読んでいる者としては肩すかし以外の何物でもない。これが贋作者の総元締めなんて誰が信じるのか。
そしてそのコピアがどうなったのかが語られていないのもマイナス要因。コピア自身は「不起訴になってやる」「そしてリベンジだ」と自信満々んだったが莉子は「それはない」と断言した。断言したからにはコピアを実刑の有罪に出来る公算となる物証や確証があるってことだろう。それは何なのか。あるいは、莉子の断言はただのはったりだったのか。そういうところを曖昧にしてしまったのも最終巻としてはいただけない。
また悠斗と莉子の恋愛展開も結局、上手く収集がつけられていない。別れ話を切り出していたが、その結論や話し合いは結局スルーで、あのエピローグで強引に纏めた風に見せており、全く纏まっていない。
圧倒的に文章量も足りておらず、終盤が尻すぼみをして駆け足になるくらいなら絢奈のシーンをもっとカットするなど工夫があってしかるべきだろう。結論を言えば風呂敷を広げるだけ広げたけど作者自身にも畳み切れずに終わった、というあまりにプロの作家としてはお粗末な結末と言わざるを得ない。
まぁ、一応次も決まっていたから次で何らかのフォローはあるかもしれないが、単行本として出ている以上、前後編が最初から前提の『事件簿』のIやIIとは違い、単行本としての完成度こそが評価されるべきだと思う。そう考えるとあまりに完成度は……。
キャラクター面ではとにかく莉子が卑屈。前向きに、なんて言っていた頃の莉子が懐かしい(まぁ、それは二年近く前の過去話の中でしかなかったのだけど)。
華蓮は「五年の知識と経験を持って波照間島に凱旋した」みたいな表現をしたけど、結果的に東京で頑張るということを諦めて逃げ帰っただけにしか見えなかった。
悠斗は多少頑張ってたかなと思わなくもないのだけどね。というか、悠斗がヘタレっていうのがこの作品では割と定説というか定番になっているけど、本当の意味でのヘタレは莉子の方なのかもしれない。そう思うと、彼女と添い遂げる気満々の悠斗が哀れに見える。そう見えてしまっていること自体が、このシリーズのこれまでを考えるとこの一冊が失敗だったんじゃないか、と思わずにはいられない。
オールスターということで華蓮や絢奈も登場。出番が多く、絢奈に至っては短編を幾つか挟むほど。とはいえ、コピアがこの二人を「利用できる」と思った理由が分からないんだよね。普通に考えれば莉子を支えてしまうし、華蓮や絢奈のことを知っていれば万が一にでも事件の真相に辿り着いてしまう可能性を考えると、とてもではないがリスクマネジメントが出来ていたとは思えない。
つまり、あまりに後付けの言い訳でしかなく、二人の登場ありきのストーリーであり、ストーリー上必要だから登場したわけではない、ということだ。
唯一の良かった点は華蓮のキャラクター性か。莉子との関係をのらりくらりとしてきた華蓮だったが、最後のエピソードでは彼女なりに莉子をどう想っていたのかがしっかりと語られていたのがせめてもの救い。
評価は★(1点 / 5点)。『事件簿』の最後の意味不明なウェディングエンドに比べればまだ多少はマシという感じかもしれないが、それでもシリーズワースト3くらいには数えられるくらい酷い出来であることに違いはない。
諸葛鳳雛
「天使と悪魔」というミステリー読んだところおもしろかったので
おすすめしたいと思います。
著者は「ダヴィンチ・コード」を書いたダン・ブラウン氏です。
機会があったら読んでみてはどうでしょうか?