万能鑑定士Qの推理劇III
- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[Qシリーズ(松岡圭祐)]

≪あらすじ≫
「あなたの過去を帳消しにします」。全国の腕利き贋作師に届いた謎のツアー招待状。凛田莉子に更生を約束した錦織英樹も参加に名乗りをあげた。婚約者のために人生をやり直すと誓った錦織だったが、待っていたのは不可解きわまる旅程だった…。雨森華蓮の弟子をも翻弄する何者かの企みを、莉子は暴けるのか!?スペイン、イタリア、エジプト、ギリシャを駆け巡るシリーズ最大規模の謎解き勝負。「Qの推理劇」シリーズ第3弾。
(単行本裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
推理劇シリーズの第三弾。瀬戸内の弟子で、莉子の兄弟子は事件簿シリーズで出てきていたが、今回は華蓮の弟子の錦織英樹の登場。
話の内容は単行本の「あらすじ」ほどの大げさなことはない。ただ、移動トリックが綿密に練られていたのかな、とは強く感じることが出来た。観察眼と知識量による推理によって犯人のわずかな綻びや原因を突き止める莉子のスタイルからすると、このトリック自体がとても「探偵モノ」としての毛色が強すぎるかなぁ、というのが本音かも。
もちろん、莉子が真相に辿り着いたのはその行動力で得たものと、ちょっとしたモノから推理をした結果なのでそこだけはこれまでと大きく変わってはいないんだけどね。
ただ、あらすじにもあるように世界各国を渡り歩いていたとはあるが、実際にはだいぶその印象は薄い。各国でのエピソードは、英樹を追うためだけなのであまり深く描かれていないせいだろう。各国のエピソードは結果的には、その国での風習や習慣といったものを紹介する程度のものにしかなっていないため、素人ながらちょっといつものような「深み」みたいなものを読んでても感じなかった。
ストーリーあっての描写というよりは、小出しに出来る各国の習慣に関するネタが先にあってそれを活かすためのストーリーを強引にねじ込んだ、という感じ。
キャラクターとしては、莉子が数か月に渡って日本から離れており、旅を共にするのは英樹を心配している婚約者ということもあって、「離れることで初めて感じる相手の大切さ」みたいなものを描きたかったんだろうな、とは思った(実際に、そのような描写もされている)。
ただし、そういった描写は文章でひと言ふた言ある程度であって描写としてそういうのが莉子にも、読んでいる読者にも実感させるほどの積み重ねも作り込みもないので、上辺だけにしか感じなかった。
莉子が遠く離れたことで悠斗のことを再度強く想い直す、というにはエピソードとしても文章としてもあまりに薄っぺらい。こんなことならそういった描写はいっそのこと思い切って一切せずに、英樹を軸に文章量を増やした方が良かったのではないか。
それよりも莉子が頑なに悠斗を頼ろうとしない姿勢の方が気になった。短編であそこまで接近しておいて二か月も疎遠とか、それはまぁ莉子だけでなく悠斗もどうなんだろう、と思う(短編集IIの悠斗ならもっと積極的になりそうなものだ。特におじゃんになったディナーの約束くらい再度しそうなもので、その辺りも「本当に莉子や悠斗がいたら」という時間の流れではなく、「作品を描く都合、まだ積極的じゃない方が都合がいい」というご都合主義じゃないかと邪推してしまう)。
その上、さらに日本を数か月離れてて電話一本ないとか……。電話をすれば悠斗が無理をすることが目に見えていたとはいえ、これはなんというかこの二人の関係が付かず離れずの関係なのは(作家と編集者の都合を除けば)、むしろ莉子の方にも大きな原因があるんじゃないかとすら思える。
そんなわけで悠斗の出番はほとんどなし。まぁ、このストーリーじゃ出てくる方がおかしいがw
評価は、★★(2点 / 5点)。世界をまたにかけるのは良いが、一つ一つの国でエピソードを作っている割には軽く、莉子の内面描写も薄っぺらい。評価できるのは英樹の内面描写の掘り下げと、犯人がちゃんと登場していたことか。姿見せぬ人間が犯人、という事態にならなかったことだけが救い。
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