万能鑑定士Qの短編集II
- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[Qシリーズ(松岡圭祐)]

≪あらすじ≫
美人鑑定家が奔放な知識で「人の死なない」コージー・ミステリに挑む、エンタメ・ノヴェルの先駆的ブランド〈Qシリーズ〉。総額8億円もの切手コレクションから1枚300万円の変わり種銀貨、満開のソメイヨシノまで、あらゆるアイテムにまつわる不可思議と、胸のすくような謎解き、驚くべき結末の数々。ついには凜田莉子の最大のライバル、雨森華蓮が出所し……。面白くて知恵がつく至福の読書、Qの短編集、大反響の第2巻!
(単行本裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
短編集の二冊目。こちらは先の『I』と違って本当に短編集という感じ。やりたいことが『I』の時のように短編を通して一貫しているわけではなくぶつ切りになっているが、裏を返せば本当に一つ一つを短編として手軽に楽しめる。
前回もエピソードは小分けにされていたものの、本質としてやりたいことは一つで一本筋が通っていたため出来なかったやり方なのだが、今回は分断された幾つかのエピソードがあったので一つ一つみていこう(個別評価付き)。
【物理的不可能】 ★★★★☆(4.5点 / 5点)
車を使ったトリック。文字通り、物理的不可能と思える犯行をどうやって可能にするのか、というミステリー主体のエピソードだ。莉子の鑑定範囲の広さが切手から車の構造にまで至っており、正しく「万能」の名に相応しい一本で、「事件簿」シリーズの序盤や七巻で盗作疑惑を見抜いたエピソードに通じる面白さがある。
【雨森華蓮の出所】 ★★(2点 / 5点)
文字通り、華蓮の出所と彼女の出所後「初仕事」を描いたエピソード。「毒を以て毒を制す」「悪には悪を」と言わんばかりのやり方による事件解決で、性善説を軸とする莉子とは対照的な性悪説っぽい華蓮のやり口はこのシリーズ作としてはなかなかに斬新。莉子の私室の現状もチラリと垣間見えるサービスも。
ストーリーとしては贋作を作ってからの展開はカタルシスを得やすい。ただ、莉子の性格があまりにひどい。ひどいというか、華蓮の激怒っぷりの方が正常で莉子が異常者に見える。華蓮をこの形で活躍させるためにはこうするしかなかったのだろうが、あまりに物語の起点となる部分の出来が酷い。
【見えない人間】 ★★★☆(3.5点 / 5点)
莉子の学生時代の友人とオーディションに挑む一方で、莉子は行方不明の父を探す娘の手助けをする、というエピソード。鑑定家として何かを鑑定した結果として真相を見抜く、というよりはただ観察眼が良くて異質なものを見抜いているだけで、もはやただの探偵モノ。それを言うと【物理的不可能】もそうなんだけど、それよりももっと探偵モノの色が濃い。
【賢者の贈り物】 ★★★★★(5点 / 5点)
泥棒をする兄を惨めに思って内部告発する妹と泥棒一家の真相というエピソード。おおよそ中盤に差し掛かる辺りからだいたいの真相は読めていたもののどうやって落としどころを着けてくるのかと思っていたが、そこは久々ゲスト登場の嵯峨先生の分野を使ってきた、という形。そういう病気もあるのか、といつも以上に勉強になった。
【チェリー・ブロッサムの憂鬱】 ★★☆(2.5点 / 5点)
ソメイヨシノ絶滅の危機……かもしれない、というエピソード。ただし、それはあくまでネタとしても部分であって、短編としては莉子と悠斗の恋愛劇の続きである。二人で夜桜デートをしたあとは、ミシュラン三ツ星レストランで食事(未遂)、という流れまで行ったのは、「ようやくか」という感じ。でも、この二人さりげなく手をつないだりとかしてるけど、そっちは意識してないのかね(苦笑
しかしながら、編集部での莉子と悠斗の(痴話)喧嘩はいらなかったのでは、と思う。だって、なくても物語として成立しているし、その後の展開で莉子も悠斗もその喧嘩についてほとんど言及していない。悠斗自身は直前のデートシーンで莉子の気遣いに感銘を受け、「自分も」と思っていたのになぜそうなったのかとも思うし、莉子だって勿体ぶらずに話せばそれで終わってたシーンなのにどうしてああなったのか。もはや完全にそのシーンだけ不自然に浮いてしまっていて、「あぁ、作者の松岡さんが単純にこの展開を描きたかっただけだな」と。
評価は★★★☆(3.5点 / 5点)。前回と違って本一冊としてのコンセプトがまちまち。まぁ、これこそが「短編集(短編を集めたもの)」という意味では正しくて、前回の『I』の方が良すぎた、ということなんだと思う。
NoTitle
なんか混乱させてしまったようでしたら申し訳ありません。
自分も全巻読んではいるものの、過去作の内容は
時間が経つにつれてあまり覚えていなく記憶もあいまいで・・・
あれ?もうあの時絢奈出てたっけ・・・?と・・・
そうですね、刊行順(発売順)に読むのが一番良いのでしょうか?
ただそうすると万能鑑定士→特等添乗員→鑑定士と
作品がいったりきたりしちゃうかな?うーん…どうでしょうね。
ウィキペディアを見るとこの後の刊行の順番は(添乗員入れて)
添乗員1→添乗員2→添乗員3→推理劇3→添乗員4→
推理劇4→探偵譚→添乗員5→謎解き、ですね。
特等添乗員αもお読みになっているのであれば
次回レビューは添乗員の1冊目、というのもどうでしょうか。
長々とすいません。