万能鑑定士Qの推理劇II
- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[Qシリーズ(松岡圭祐)]

≪あらすじ≫
シャーロック・ホームズの未発表原稿が見つかった!? 時を同じくして小さな依頼主が持ちこんだ『不思議の国のアリス』、史上初の和訳本。2つの古書が、凜田莉子に「万能鑑定士Q」閉店を決意させる。なぜ少年は鑑定を依頼したのか? 果たして原稿はコナン・ドイルの真作なのか? オークションハウスのスペシャリストになった莉子が2冊の秘密に出会ったとき、過去最大の衝撃と対峙する。「Qの推理劇シリーズ」第2弾。
(単行本裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
推理劇シリーズの第二弾。まずは、シリーズの順番で読んでしまったことを失敗したと後悔。ちゃんと刊行順に読めば良かった。というのも、外伝の「αシリーズ」の主人公・浅倉絢奈が、気が付けば莉子や悠斗と顔見知りどころか友人になっちゃってたんだよね。
一応、前巻にも出てきてはいたんだけど、その時は完全に偶然の出会いでそれ以上には至らなかったから単なるおまけ的なクロスオーバーかと思っていたのだが、ここまで深く関わっているとは思ってなかった……。
これはどう捉えるべきなんだろう。個人的にあまり深く関わり過ぎてしまうのはいかがなものか、と思ってしまうタイプ。莉子と絢奈では高い推理力を発揮するが、タイプがまるで違うので一見すると共存出来そうなのだが、出足では想像力で可能性を探る絢奈の方が早いので、莉子がどうしても後手に回っているし、何より絢奈のポジションが結果として悠斗のポジションを侵食しているので、ただでさえ恋愛がらみ以外は空気の悠斗の存在感がさらに希薄に……。
でもとりあえず、次は「推理劇III」じゃなくて先に刊行されてる「短編集」から読むことにしよう。以前いただいたコメントではあまり短編集の方は本筋には関わっていないっぽいので、推理劇全部読んでからでも良いのかもしれないし、これで莉子たちとの触れ合いが外伝の方に載ってたらダメなんだけどw
さて、本編の内容の大きなところは莉子がお店を閉店させてオークションハウスに就職した点、かな。似たようなことは「事件簿」シリーズの時に、ファッション誌の秘書としてやっていたがあっちは身分を隠していたし、お店を閉めたわけじゃなかったのだけど、ここでは完全に閉めてしまった。
誰かのために全力になれるのは莉子の良いところなんだけどお店を閉めてまでなのかなぁ、というのは終始疑問だった。科学的な鑑定が必要なら氷室を頼るとか、莉子の鑑定仲間の横の繋がりから古書に詳しそうな人に接触するとか、そういうのじゃダメだったんだろうか(先に出てる短編集で氷室を頼れない事情が出来たならともかくだが)。
動機も、依頼人とはいえ小学生の少年ではね。いずれそれは彼が、莉子の高校時代の先輩の息子と分かることで多少動機づけを補強しているように見えなくもないが、恩師ともいうべき瀬戸内陸が借金まみれの中でも金銭面を工面したお店だったはずなのになんか扱いが軽い。誰だって故郷の思い出が強いのは理解はするが、今の莉子を形作った瀬戸内親子を無碍に扱っているようにしか見えなくてやり過ぎな感じの方が強い。
ただ、エピローグは良かった。捻くれた見方かもしれないけどね。この作品、基本的に性善説を信じている莉子の言動に心打たれて、犯罪者も悔い改めることが多い(というかほとんど)なんだけど、そこがどうしてもご都合主義というか、そんな感じはずっとしてたんだよね。でも今回は最後まで悔い改めることはなかった。それも、莉子にとっては関係が深い相手だったはずなのに、だ。
これだけ事件をこなしていればそういった相手もいる。莉子の性善説が通用しない犯人の登場は、この先の何かを意味するものなのか、何かっていうのは気になるところ。
犯人の一味の一つを追い詰めたシーンも、ありきたりだけどミステリの読み物としてはなかなかいいトラップだったと思う。普段からちょいちょい似たようなことはやってきた莉子だが、ここまで大々的にやるとなると初めてなんじゃないかな。そこは面白かった。
キャラクター面でいうと、莉子は前述の通り。あとは莉子が全体的に、年相応の精神状態だったかな、というのが率直なところ。普段はその知識と観察眼とそこから導き出される論理的思考による推理でかなりクールなイメージだけど、この巻の彼女はそういったこれまでのイメージの「東京に上京した凜田莉子」じゃなくて、天然で感受性が強くて年相応にミーハーで流されやすくい「沖縄時代の凜田莉子」、あるいはその延長線上って感じが強かった。それが良いか悪いかは読者次第、というところかな。私はあまり良かったとは思わなかった。というより、莉子がブレまくってるので論理的思考がほとんど見えず、グダグダした感じが終始続いたものをずっと読まされた感じだし。
久々登場の葉山のセリフがなかなか良かった。「あの親のもとで幸せになれるとは思えない。私たちはあの少年の未来も救ったんです」のひと言は的を射ていたと思う。莉子からすれば、子は実の親のところにいることこそが幸せだと考えていたのかもしれないが、実際の親の現状を知ってしまうと葉山の言葉の方が正しいと思える。そういったセリフを葉山が言えるところがミソなんだと思う(華蓮編の時にも思ったけど)。
しかし、さすがに悠斗の最後のシーンの登場はご都合主義すぎるだろう、と思った。言動含めてあまりに出来過ぎ。最初から悠斗が潜んでいるとか、犯人の逃走を莉子が予期していたとか、そういうのがないと正直かなり展開としては褒められるものではなかった。
莉子のパートナーとしても、事件にかかわる部分の相談事は大部分が悠斗から絢奈に移ってしまい、マクロな見方をするとこの巻で「小笠原悠斗」というキャラクターの存在価値は半分以下になった。というか、莉子の恋愛相手以外の要素が完全に消えて居ても居なくても良いキャラになってしまい、事実この巻の出番なんて先に上げた最後のシーンのご都合主義以外はないに等しい。
評価★★☆(2.5点 / 5点)。真犯人のあり方や葉山の言動など随所に光る点は多かったと思うが、読了感というか結末後の余韻は前巻の方が良かったかな。
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