万能鑑定士Qの推理劇I
- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[Qシリーズ(松岡圭祐)]

≪あらすじ≫
高校までどん底の成績だった天然少女、凜田莉子。沖縄から上京後、感受性を学習に役立てるすべを知り、わずか5年で驚異の頭脳派に成長する。次々に難事件を解決する莉子のもとに、怪しげな招待状が舞いこんだ。絢爛豪華な宝石鑑定イベントに潜む巧妙なトリックを解き明かせるか。1年半で200万部を突破した『面白くて知恵がつく人の死なないミステリ』。初めての方も是非この作品からお読みください。Qシリーズ最高傑作登場!
(単行本裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
表題の一部を刷新しての新シリーズ第一弾。一応、仕切り直しなところもあるからなのか、序盤のことやここまでの流れのことを結構触れながら進んでいる、というのが第一印象。
話の内容としては宝石鑑定イベントそのものは空虚なもので、それに参加することで狙われている前年優勝者を見守るのがメイン。だったはずなのだけど、気が付くとそんな警察からの依頼なんてすっかり忘れているような展開ばかり。結局、警察への報告なりなんなりはどうなったのかなど、描くべきところはもっとあったのではないかと思ってしまう。もう少し本来の目的を見失わずに進んで欲しかったところ。
相変わらず序盤の短編的なネタが最終的に一本の線に繋がる構成力の高さは凄いんだけどね。ただ、肝心のトリックが『モナ・リザ』を題材にした九巻とほとんど一緒で二番煎じな感じは否めない。「莉子にその時の経験があったから見破れた」というのならまだしも、その手の描写はほとんどなかったはずで、そうなると似たようなトリックを同じシリーズで使ってしまっているのは、ちょっと作家としてどうなんだろう、と思ってしまう。
(無論、過去の経験が活きた展開だというのならそれでいいのだが、そこはもっとちゃんと匂わす描写がないとダメだろう)
また、過去の出来事を再び引っ張り出してきたせいか、随所に設定の変遷というか、ズレが生じているようにも見える。瀬戸内店長から教わったことも、なんか変化しているし、そもそもあのシーン、すでにバイトとして雇った後のはずなのになんか試験されてるし(うろ覚えだから私の方が間違っているだけかもしれないが)。
そういうところでシリーズ作を読んできた身としては、あちこちでチグハグな描写が多々あった感じ。
キャラクターとしては、莉子と悠斗の恋愛模様が適度に描かれていた、という形かな。最後のシーンは、お金持ちのゲストカップルと、そうでない莉子と悠斗の対比が素晴らしかった。金持ちは打ち上げ花火、莉子たちは線香花火。持っている資金力の差、なのだろう。
でも、ともに花火をパートナーと寄り添って観る姿に違いはない。
「愛はお金じゃない」なんてものじゃないのだろうけど、金の差はあっても愛しい人へ向ける愛情に差がないことを暗示しているっぽくて、ここまでのシリーズ作の中のエピローグでは一番好きだし、一番完成度が高いかも。
ただ、こちらにも粗はあって、例えは4DWが莉子に突っ込んでくるシーンなんかは、単純に「物理的危険から莉子を救う悠斗」をやりたかっただけなんだろうな、と。どう考えてもこのシーンだけ他のシーンと比べて完全に「浮いて」しまっている。
ほかにも悠斗が単独取材に嬉々としてたシーンは悠斗が「女心が分かってない」と咎められることになったが、あれは咎められるべきだったのだろうか、と思ってしまう。
例えば悠斗がずっとあの場にいてやり取りを全部見た上なら「いや、そこで取材優先したらダメだろ」とは思う。けど、いきなり帰ってきて事情も分からないまま、絶対に取材させてもらえないはずの相手からOKをいきなり言われたらそこは「ぜひ」と言ってしまうものなんじゃないかな、と。
この作品は三人称の視点から一人称を上手く取り入れながら描いていて、そこが特徴であり読みやすさの一つでもあると思うのだけど、このシーンは三人称の部分と一人称でなくてはいけない部分がゴチャゴチャになってしまっている印象。
評価は★★★(3点 / 5点)。最後のシーンが良かったからまだこの点数かな、という感じ。トリック、構成、キャラクター描写などを含め総合的に、旧来のシリーズを読んでいるとやはり出来には粗が目に見えてしまっている。
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