万能鑑定士Qの事件簿XI
- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[Qシリーズ(松岡圭祐)]

≪あらすじ≫
わずか5年で京都随一の有名スポットになった音隠寺。そこは、あらゆる願いがかなう儀式で知られていた。京都に赴いた凜田莉子は、住職・水無施瞬によるトリックをほぼ見抜くが、決定的証拠を握れずにいた。止められない瞬は、次の話題づくりに安倍晴明の式盤を狙う。所在不明の式盤を密かに探し、盗むつもりだ。「国宝」にたどりつくのは莉子か瞬か? かつてない敵を相手に、究極の頭脳戦が始まる。「Qシリーズ」第11弾!
(単行本裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
シリーズ第11巻は、兄弟子との勝負。二人して瀬戸内陸の弟子というのはやや出来過ぎというか、都合よく展開していたが、まぁそんなこともあるのだろう、と納得。どちらかといえば、弟子が打ち勝つべきものは師匠なわけで、そういう意味では莉子が打ち勝つべきは師匠である瀬戸内陸になるわけだが、それを最初のエピソードでやってしまったために出てきた兄弟子、ということなのかな。
もう一つは、恋愛劇を本格化させてきた、というところか。
第9巻で莉子と悠斗の関係は(特に莉子の中で)一歩も二歩も進んだが、10巻が過去編に終始してしまっていたので、どうなったのかと思っていたが、その辺りは順調なようだ。
ストーリーとしては、ラストの展開に疑問。先にあげたようにご都合主義といったが、こちらも似たようなものだった。結局、最後は運任せというか、偶発的な事故のおかげで瞬が倒れて勝利が莉子の方へ転がっただけで、これまでのシリーズを読んでいると勝利の決め手としてはかなり弱い。
莉子からすれば兄弟子との対決のはずだったが、対決として莉子が「勝った」という印象は皆無に等しく、最後の偶発的な事故がなければ瞬の勝ちだっただろう。むしろ、その状態の瞬を足元から掬えるくらいの「何か」があって欲しかったので苦しいところ。
キャラクターは、恋愛要素強め。莉子が重要証拠よりも自分の想いを大切にしたシーンは良かったと思う。あそこで莉子がディナーに行くことを選ばないからこそ意味がある。自分が安易な賭けに乗ったせいで証拠を失うことよりも、その証拠を守るために好きでもない男とデートすることの方が嫌だったし、彼女にとって重かった。
これは結構重要だと思うんだよね。良く、恋愛劇とかだと「相手のために自分が犠牲になる」というのはあるけど、それは何の意味もない。そんなことをされても相手は嬉しくも何ともないだろう。少なくとも私なら嬉しくないし、逆に憤る。悠斗だって、「短冊とディナーを賭けられて、短冊守るために自分を犠牲にしてきた。でも短冊守れたよ」と言われたら嬉しさよりも憤りの方が強かったはずだ。
作者にそういった恋愛のド定番みたいなことに対する否定的なメッセージがあったのかどうかは分からないけどねw
あとはその悠斗がカッコよく最後の方立ち回っているのが印象的かな。ヘタレな印象は序盤から中盤くらいまで、終盤は頼れる感じを発揮して莉子では難しい肉体派な動きもしていた(設定上、フットボールではエースなんだし、その辺りの運動神経を活かせる場面があれば活躍できるようだ)。
ただ、中盤での「どうしたったの、凜田さん」はむしろこっちがどうしちゃったんだよ、って話だったがw
好意を寄せている彼女が、いけ好かない金満イケメンとディナーに誘われた。断るためには決定的な証拠の短冊をイケメンに渡さないといけない。彼女はそこで、イケメンとのディナーじゃなくて短冊を渡すことを選んだ。
莉子視点で書けばさっきみたいに「相手のために自分の想いを犠牲にしない」という良い形で描かれるんだけど、悠斗の視点だとそれはがらりと変わる。うん、どうしてそこで莉子を責めるのかw むしろ好意を寄せているのだから、内心、不謹慎でもそのことを喜んで然るべきだろう。少なくとも相手の女性は、その金持ちイケメンにはなびかなかった、ってことなんだから。
幾らなんでも「鈍感」のひと言では片づけられないほど描写が凄くチグハグ。ストーリー上、「この流れでこのシーンが出てきた」のではなく「このシーンを描きたいからこういう流れになった」という形になっていて、それが悪い方向に働いてしまった。シーンありきだったから展開も内容も強引で粗さだけが目立った。
また最後のシーンも、インチキ祈祷文で婚姻を願われて何が嬉しいのか分からない。どうしてこんなシーンになったのかも、そのシーンありきでどうやって締めるかを考えた結果の苦肉の策にしか見えなくてクオリティが低い。その前の、音隠寺のエピローグも雑。
このシリーズ、犯人には犯人の汲むべき事情や想いがあることも少なくなく、今回の瞬も同様だが、あまりに恩赦というか穏便すぎる結末や数億も寄付していたとかいう裏設定など今回の推理対決の肩すかし具合と同じくらい残念な出来。
評価は★★(2点 / 5点)。前巻以上に、ネタありき、シーンありきな感じが強くて纏まりに欠けている印象。せっかくの兄弟子との対決なのにエピローグ含めて全体的に中盤までの盛り上がりに対して、クライマックスは完全に失速した。
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