万能鑑定士Qの事件簿X
- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[Qシリーズ(松岡圭祐)]

≪あらすじ≫
凜田莉子は3年前のことを思い出していた。「万能鑑定士Q」を開業したものの、人を疑わない天然の莉子は騙されてばかり。身につけた知識を活かせず、経営も惨憺たる有様だった。見かねた恩人・瀬戸内陸は、門外不出の思考法を莉子に授ける。それは莉子の知性を飛躍的に高め、比類なき推理力を獲得させる重要なキーだった。莉子はなぜ、難事件を解決できるほど賢くなったのか。いま全貌があきらかになる。「Qシリーズ」第10弾!
(単行本裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
シリーズ第十巻は、過去編をメインにこれまで描かれてこなかった各巻の後日談あるいは前日譚の語りが最後に入るという構成。十巻目にもなれば相応のファン数はいるはずで、当然そういったファンの声も作者の松岡さんにも届いていたのだろう。
このシリーズをイチから読んでいるファンが最も気がかりなのは、当然ハイパーインフレ後の日本や莉子がどうなって二巻目以降に繋がったのか、という部分。それら含めて後日談やエピローグが序盤の巻ほどほとんどない作品群なので、「続きが知りたい」という声が多数あったのではないか、そしてその結果として生まれたのがこの十巻だったのではないか、というのは素人でも容易に想像出来た。
シリーズの流れからすると九巻が最終巻、十巻がおまけの番外編っていう感じもするんだけどまだまだ続いてるんだよね(苦笑 松岡さんとしてはここで終わらせたかったのに思いのほか人気が出てしまって終わるに終わらせられなかったのか、あるいはそうでもないのかというのは伺ってみたいところw
さて、ストーリーとしては莉子が蓄積した知識を知恵としてどう生かすか、という術を学び実践するところが主体となっている(とはいっても中盤以降はもうほとんどいつもの莉子状態だがw)。
それを伝授するのが、ハイパーインフレ事件の首謀者である瀬戸内陸だというのがこの作品らしい「人と人との絆の多面性」が現れている、のかな? というよりも、犯罪者であっても一人の人間としての一面を引き出す「凜田莉子」という人間性が出た結果か。陸しかり、華蓮しかり、二巻の西園寺しかり、犯罪者が持つ人としての心を引き出している感じが出ている。
また、葉山や氷室といった一巻の時点ですでに知り合いで莉子との付き合いが相応にあった人たちと莉子との初対面も描かれている。本当に過去編のオールスターというか、決選集みたいな感じ。
過去編のあとはエピローグ。拘留された瀬戸内陸や楓との会話シーンは印象的だった。たぶん、二巻を読み終えた後からずっと知りたかったキャラクターだったからだろう。陸は結局詐欺罪だったのか、それとも内乱罪が適用されたのか。どちらにしても、規模が規模だけに十数年の服役はほぼ確定なんだろう。数か月に一度くらいのペースで時折、陸に莉子が会いに行っている、みたいなエピソードがあると面白いかな(なんというか、困ったときのなんとかみたいなw)。
それ以上に気になるのは楓か。父親逮捕のきっかけを作った莉子との関係性がどうなるのか。楓は「(莉子を)嫌いになれるわけない」と言っているし、陸も「楓の友達でいてくれるか」と言っていたが、ここまで二巻を終えてからずっと楓の登場回数ゼロ。これが何を意味しているのか。松岡さんがこのエピソードを描くつもりがなかったから書いてないだけなのか、それとも楓の存在はこの後意味を持ってくるのかは分からないけど……。
キャラクター面においては、やっぱり過去の恋愛相手である朋季の登場が大きかったのかな。過去の男の登場で、前巻で悠斗と良い感じになりながらも三角関係や波乱、修羅場なんてのがあるのかとも思ったが、エピローグでは朋季との関係を暗に否定してきたのは意外。「彼氏でもできた?」という問いに、莉子は完全には否定しなかったし、現時点では悠斗への想いを自覚しているのは間違いないし、朋季との間で揺れ動いている、という感じでもないのか。
ただ、朋季との関係が完全にゼロなら朋季はいっそ結婚くらいさせても良かったかな。二人の関係性を曖昧に描くよりキッパリ描いてしまった方が読み手としてはスッキリする。それをしなかったのは、今後先にあげたように悠斗を巻き込んでの再登場があるのか、それとも曖昧に誤魔化すのがこの作者の作風なのか、といったところか。
評価は★★★☆(3.5点/5点)。ネタとしては悪くないのだが、なんとなく「読者から要望のあったものを纏めてみました」感が強くて一冊の本としての纏まりに欠ける。あと、印鑑が完全に同一ってあり得なくね?(笑 人の捺印といってもその日の状況や状態で変わるはずで、そうなれば当然微々たる差が毎日使い分けていたとしても出てくるはず。数千倍にまで拡大しても完全一致というのはさすがにないな、と)。
Comment
Comment_form