万能鑑定士Qの事件簿IX
- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[Qシリーズ(松岡圭祐)]

≪あらすじ≫
「これは贋作ではないか?」かつて、ルーヴル美術館で凜田莉子が『モナ・リザ』に抱いた違和感。その直感が、莉子の人生に転機をもたらす。37年ぶりに日本開催が決まった『モナ・リザ』展。そのスタッフ登用試験に選抜されたのだ! 鑑定士として認められた、初めての大舞台。莉子はこれまで培ってきた全てを注いで合格を目指すが、『モナ・リザ』の謎が襲いかかる。最大の危機、到来!! 「Qシリーズ」第9弾!
(単行本裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
シリーズ第九巻。この巻が、現在実写映画化のベースとなっているエピソードである(ちなみに私はまだ観に行っていない。ただ、いろいろとネットを視て回るとあまり実写版の評判は芳しいものとは限らないみたいだが)。どうして実写化に辺りこのエピソードを選んだのか、それが良く分かる一冊だと思う。
まずは、モナ・リザというネタのインパクトの大きさ。ルーヴル美術館もそうだが、とにかくこれまでのシリーズと比較しても一、二を争うほどインパクトが大きい(これに比肩するのは、『ハイパーインフレ事件』だろうが、あちらはやや架空っぽさが強かったし)。
二つ目は、物語の起承転結の起伏が激しいこと。莉子が臨時学芸員に選ばれ順調に特別カリキュラムをこなしまでの『起』『承』、鑑定能力を喪失してそこからの復活の『転』、そして最後にすべての真相を解き明かす『結』の波が大きいので、これまでのQシリーズを仮に映画実写化するのであればその中ではドラマティックな部類に入るだろう。
そして最後は恋愛要素が強いこと。莉子が悠斗を本格的に意識することになったエピソードだけに、実写版でその辺りがどう扱われているかは分からないが、その辺りも一般受けしやすい要素がある方だと思う。
これらのことは原作の感想としても同じことが言える。
すでに出ている台湾編での推理の鈍りもそうだったが、こちらは莉子の観察力・洞察力の喪失という最大の危機として描かれている。また、その洞察力から繰り出される鋭い推理のために、どうしても理知的な印象が強い莉子だが、本来は感受性の強い女性。今まで以上に喜怒哀楽で自身の感情を露わとするシーンの多さも印象的だ。
そこに話の真相がうまく絡んでいる。莉子が復活し真相を嗅ぎ付けてから解決までの時間の短さもことの重大さを踏まえると普段とは逆に、その短さが良い塩梅に仕上がっている。
キャラクターとしては、単純に三点だけ。一つは莉子の感情。特に恋愛要素が強く出てきたのは、ここまでシリーズを重ねてきたからこそ、という感じが実はあまりしなかったのはちょっと勿体ない。悠斗がわざわざ自分のためにやってきて助けてくれて恋に芽生えるという展開なら序盤でやっていても違和感がなく、逆にシリーズ九巻目にやる内容としてはやや浅い気がする(悠斗が助けに来たことが決定的なきっかけになっても良いが、もう少し潜在的に意識していても良かったのでは?)。まぁ、今回莉子が抱いた悠斗への感情が恋慕ではないのであれば、これでも良いがたぶんそれはないだろうしなぁ(苦笑
二つ目は悠斗の活躍。序盤から中盤は相変わらずだったが、おぼれていた子供を助けたこと、ヒントをもらっただけだと言っているが、その中で彼なりに莉子が引っかかったトラップを見破ったこと、さらにヒントがなくても苗字の微妙な違いに気付いたことなど見どころはいつもより圧倒的に多い。
恋愛云々は別にしてもっとメタな見方として、物語上主役である莉子のパートナーとして相応しい活躍だった。
三つ目は雨森のまさかの再登場かなw こういう後日談が入ることは、このシリーズ作では珍しい。レギュラーで登場しまくっている葉山とか嵯峨ならまだしもね。わざわざこういった後日談が入ったということは、雨森の再登場や雨森メインのスピンオフの可能性もあるのか?
評価は★★★★★(5点/5点)。良くできていて面白い。多数あるシリーズ作の中で映画実写化においてこのエピソードを選んだ理由も納得の面白さ。ただ、このエピソードが面白いのはこれまでの蓄積があってこそなのでは、とも思ったので、このエピソードを最初に実写化して面白いかどうかは微妙なのかもしれない。
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