万能鑑定士Qの事件簿 VIII
- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[Qシリーズ(松岡圭祐)]

≪あらすじ≫
波照間島から凜田莉子に届いた突然の手紙。そこには「水不足問題は解消。寄付はもう必要ない」とあった。募金はまったく集まっていなかったはずなのに! 故郷に戻った莉子が見たのは、12億円で夢の発明を買えると信じ、無邪気に喜ぶ人々の姿だった。同級生の葵、結愛とトリオを組み、発明者のいる台湾へ向かうが、誰も彼の姿を見たことがないという……。莉子は故郷を救うため、台湾を駆ける! 「Qシリーズ」第8弾!
(単行本裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
舞台は再び海外へ。今度は台湾。ただ、台湾と波照間島の関係性というか地理的な近さや酷似している部分もあるせいか、そこまで海外というような雰囲気はなかったのかもしれない。
さて第八巻だが、一言でいえば「莉子の弱さ」を着眼点にした一冊だったと思う。以前から描写されていた寄付から発生した今回の事件。本当に土壇場の土壇場、ギリギリになるまで勝利の女神は莉子に微笑まず、いつもはその知識と洞察力で偽りを見抜き、真相を白日の下に晒してきた莉子のそんな姿が出てこないのは読者としてもヤキモキする部分だったし、そうさせるのが狙いだったのかもしれない。
莉子もまた人間だ。結果的にどうだったのかは分からないが、故郷の問題を前にしてかなり焦っていた。もしかしたら、そこが事件解決の糸口を見逃してしまっていた要素だったのかもしれないが、そんなところがどことなく人間っぽい。万能鑑定士としての彼女はやはりその知識や洞察力、推理力に加えて行動力などどこか人間離れしていた。また、高校時代までの彼女もまた今とは違うベクトルで普通の人間とは一線を画していた。
でも、そんな彼女も身内や地元のこととなれば焦るし、不安も大きい。感受性豊かなところはずっと言われてきたことだが、本編で何度も涙したのはとても印象深く残っている。
そんな莉子を、フランス編とはまた違った幼馴染のメンツの視点から捉えているのがとても良かった。なのでストーリーどうこうというよりも、キャラクターに焦点を当てて作られたのがこの一冊なのかな、と。
さて、キャラクター面では先にあげたように莉子の弱さや人間性を大きく出していた。莉子が台湾に飛んだため、再びほとんど出番なしだった悠斗。しかし、フランス編とは違い彼なりの行動力とこれまで築いてきた人脈などで今度はクライマックスの現場にちゃんと居合わせていた点は、成長なのかな(笑
莉子のおかげでスクープを幾度となく記事にしているみたいだし、そういったことが結果として彼の自由度(編集長の許可を得やすい)を高めているのは、今後の伏線になってくれるかどうか。
ゲストキャラも比較的多かった今回。葵・結愛はゲストとしては勿体ない。まぁ、地元の幼馴染でもあるので今後過去編などがあればまた登場するかもしれないか。
台湾組はたぶん今回限りなんだろうなぁ。美玲はもう少し出てほしい感じもあるけどね。弟へのいたずらとかw
そんな弟・大坤。個人的に、彼が惚れたのは莉子じゃなくて結愛の方が面白かったかなぁ、というのが本音かな。葵でもよかったけどw 誰も彼も莉子にばかり惹かれすぎてしまうのもどうなのか。そこで最後に莉子以外を大坤が選ぶような変化球があっても良かったんじゃないかと思う終わり方だった。
評価は★★★★(4点/5点)。莉子らしさはないものの、莉子の人間味を感じることが出来るエピソードに仕上がっている。
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