万能鑑定士Qの事件簿 V
- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[Qシリーズ(松岡圭祐)]

≪あらすじ≫
お盆休みにパリ旅行を計画した凛田莉子を波照間島の両親が突然訪ねてきた。天然キャラで劣等生だった教え子を心配した高校時代の恩師・喜屋武先生が旅に同行するというのだ!さらにフランスで2人を出迎えたのは、かつて莉子がデートした同級生の楚辺だった。一流レストランに勤める彼は2人を招待するが、そこでは不可解な事件が起きていた。莉子は友のためにパリを駆け、真相を追う。書き下ろし「Qシリーズ」第5弾。
(単行本裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
5巻目にしていよいよ舞台は海外へ。
本来なら莉子だけでなく、悠斗も一緒なのだろうが、そうならないところのさじ加減がうまい。レギュラーキャラながらヘタレキャラでやっていることがたいてい空回りし、最後には放置で終わるという小笠原悠斗がいるのといないのとではだいぶ中身の印象も違うのだな、と再認識。っていうか、莉子への淡い想いという下心(スケベという意味ではなく本心という意味で)があって必死に行動もしておきながら、それを体裁のいい言葉で取り繕って言い訳しているのが良くなかったのか?(笑
代わりに出てきたのは、最初のエピソードでの莉子の過去編でも出てきた高校の元担任教師・喜屋武(きやん)と、高校時代にドライブデートをした相手・楚辺(そべ)の二人。喜屋武はともかく楚辺が悠斗に代わって莉子の相手役をゲストとして務めたわけだが、内面描写がほとんどないおかげか悠斗ほど印象は悪くない。むしろ、よっぽど好青年なのだろう(爆
ただ、楚辺を出してきたのは言うまでもなく莉子と悠斗の関係を第三者によって指摘するための存在なのだろう、たぶんだけどw 最後の方の”あのシーン”なんかはいうまでもなくその意図があったはずで、あそこで呆けた莉子が誰を思い浮かべたのか。これでまさか氷室や葉山ということはないだろうし、影も形も登場していない第三者ってのもないだろうし。
まぁ、シリーズ作品としてもう5巻目。登場人物たちの関係性に変動を与えても良い頃合いだろう(もちろん、変えるつもりがあれば、だが)。それに見合うだけの時間と、事件を共有しているわけだしね。
さて、中身は現在と過去のギャップを描いた一冊に仕上がっている。高校時代の莉子を知る喜屋武と楚辺から見た今の莉子、という方が分かりやすいかな。いかに莉子が高校時代からわずか数年で変貌したか。それを証明するためのエピソードであり、実際に最後は喜屋武も楚辺も「高校時代の莉子」という幻影を良くも悪くも消し去られ、「上京して成長した莉子」を認めたわけだ。
過去の幻影はどこまでもやさしい。だってそれは永遠に変わらない思い出なのだから。そこからの変化。それはもしかしたら時として理想との乖離によるショックもあるかもしれない。しかし、変わったことを認めることもまた大切なことなのだということだ。
過去の莉子と今の莉子、どちらが魅力的なのかは個々人で差があるとは思うけどね。でも、どちらも魅力で、きっと今も昔も莉子の中の変わらない部分を感じたから喜屋武も楚辺も変わった莉子を受け入れたのではないかな、とも思ってみたり。
過去と現在でいえば、犯人も同様。そこに動物の権利主義を持ち込んでくる辺りが、犯人の職業ととても良くマッチしていたし、それに対する莉子の異論も悪くなかったので、相変わらずネタからストーリー作成が絶妙に上手い作者さんだな、と思った。
今回、海外(フランス)が舞台ということだったが、その描写が比較的タンパクで良かった。おそらく作者さんもこの一冊を書くためにいろいろ取材や下見もしたと思うのだけど、調べたことだから事細かに描写しがち。でも、その「映像」を共有できない読者からするとクドいんだよね(『タレーラン』とかがそうなんだけど)。かといって描写が甘いと海外を舞台にしている感じが出てこない。その辺りのバランスがとても良かった。
あとは読者もちゃんと読みながら理解する努力をしろよ、と言われている気もした(笑 値段に関する部分はちゃんと理解しながら読んでいればその時点で違和感を覚えてもよさそうなものだったが、結局サクサク読んでたからテッキリ書いてあることは正しいと先入観で思い込んでたしwww
評価は★★★(3点/5点)。その行動力から他人を振り回すことが多い莉子だが、それ以上の喜屋武らが出てきたことでいつもと印象が違った。まぁ、それは良いんだけどその辺がプラスに働かなかった気がするかな。お話のネタや楚辺というキャラクターについてはとても良かったと思う。
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