万能鑑定士Qの事件簿 III
- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[Qシリーズ(松岡圭祐)]

≪あらすじ≫
人気ファッションショップで、ある日突然、売り上げが落ちてしまう。いつも英語は赤点の女子高生が、東大入試レベルのヒアリング問題で満点を取る。この奇妙な事象をともに陰で操っていたのは、かつてミリオンセラーを連発した有名音楽プロデューサー・西園寺響だった。借金地獄に堕ちた彼は、音を利用した前代未聞の詐欺を繰り返していた。凜田莉子は鑑定眼と機知の限りを尽くして西園寺に挑む。書き下ろし「Qシリーズ」第3弾!
(単行本裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
Qシリーズの事件簿第三巻。時系列的には別の巻を読むほうが良いようなのだが、一応刊行順に読むことにした。なので、あまりハイパーインフレの後にどうなったのかは明示されていない。
相変わらず扱っているネタが現代の部分とリンクいていたり、名前を入れ替えたりしている部分があったりするのでそういった部分での変な……というと語弊があるかもしれないが、妙な現実感があって読んでいても不思議な感覚があるのは面白い。I・II巻以上にそういった側面が強く、その点においては先の二巻よりも興味深く面白い部分が多い。
誰もがイメージできるような有名人・芸能人を名前や設定を微妙に変えて使い、さらに現実にあった大きな出来事(今回だとスマトラ島地震による津波など)を入れてくるのは凄い。そういう部分でネタを作れるのは強み何だと思う。
今回は、あの有名プロデューサー絡み。そこに上記の津波やら、ノロウイルスやらを絡めている点は面白い。ネタからも音楽を軸にいろいろな手を投入していて、全体的にI・II巻の長編より単巻完結なのでコンパクトに纏まっているもののネタ的には先の長編にも見劣りしない。
また前回の長編では、莉子・悠斗ともに行動した結果が空振りで終わるというリアルな展開が終盤に続いた割に、最後はご都合主義というかそんな感じになってしまったチグハグさがあったが、今回はページ数の関係もあるのかあまりそういうことはなかったのも読んでいて心地よいというか、スッキリした感じが強いのが良かったかな。
さて、少し中身から外れてキャラクターについて。
まずは莉子。彼女の豊富な知識と観察眼による推理は相変わらず素晴らしい。何でもかんでも鑑定出来てしまうことに対して疑問を持つ人ももしかしたらいるかもしれないが、それが出来るからこそ「万能鑑定士」というタイトルなわけだし、莉子のキャラクター性(丁寧な物腰など)のおかげでそれが嫌味にならないところも良い。
悠斗は少しまともになったかとも思ったが、なんというかヘタレな部分が妙に残ってしまうのがなんか勿体ない。彼を活躍させ過ぎることで、主人公が莉子であることをブレさせないためなのかもしれないし、そうだとするならそれは良い判断なのかもしれないけどね(最後のシーンに犯人と莉子がサシで対峙しているシーンなど)。
あとはこの二人が安易な恋愛関係にならない点も良い点か。莉子は美人だし、悠斗も見た目はイケメンなわけだし、そういう関係を最後は目指しているのかな、とも思うが、今のところはそういうところを意識させるような描写がないのも良い(悠斗側は若干あるが)。
評価は★★★★☆(4.5点/5点)。単巻としての完成度みたいなものは高い。現実にいる人物や事柄を連想させる展開の多さは個人差で是非もありそうだが、私はそういったものを絡めて推理やストーリーを作れる部分も高く評価したい。
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