万能鑑定士Qの事件簿 II
- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[Qシリーズ(松岡圭祐)]

≪あらすじ≫
『週刊角川』記者・小笠原は途方に暮れていた。わずか2日で、コンビニの弁当は数千円から数万円に、JRのひと区間は九千円以上になり、いくら金があっても足りないのだ。従来のあらゆる鑑定をクリアした偽礼が現れ、ハイパーインフレに陥ってしまった日本。だが、まだ万能鑑定士・凛田莉子の鑑定がある!パーフェクトな偽礼の謎を暴き、未曾有の危機から国家を救うことができるのか!?書き下ろし「Qシリーズ」第2弾。
(単行本裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
シリーズ最初にして、たぶん現在刊行されている中では(?)唯一の前後編の長編仕様となっているエピソードの後編。ハイパーインフレになった日本の中でどういう状況になるのかと思っていたが、感想としてはちょっと複雑(笑 期待通り半分、期待外れ半分という微妙なところというのが率直かな。
莉子、悠斗ともにかすかに得たかに思えた解決への糸口が、直接的には事件解決に繋がっていない「ご都合主義になっていない」点は、妙にリアル。まぁ、ふつうはそういうもんだよ、と。
一方で、莉子の過去が事件に間接的に絡んでいた点は多分に「ご都合主義」と呼ばずにはいられないフィクションさ。
そのアンバランスさが、このエピソードの(私の中での)評価を難しくしている。どちらか片方でうまくまとめても良かったんじゃないか、とも思うが……。
直接的な犯人への言及の際に見せた莉子の豊富な知識量とその応用から導き出される推理は素晴らしいものがあったし、よく言えば短い短編の数珠つなぎのようなエピソードだったがその短編の一つ一つに実はほとんど無駄な短編がなかった構成力も凄い。
でも、読了後の感想というか評価というものが、こう突き抜けて「よかった」とか「面白かった」とか言えないのはなんでなんだろうね(苦笑
一因としては、主人公の小笠原悠斗の情けなさかな。結局、彼はキャラクターとして推理面において存在意義がほとんどなかったに等しい。せめて2巻になって彼が雑誌記者として(あるいは、莉子とのつながりを持ち続けるためでもいいが)奮起しながらそれがほぼ無意味で空回りだったのが余計だったのかな。
1巻では大して見られなかった彼のその努力や奮起が、莉子の推理の大きなきっかけになってくれればまた違ったのだろう。探偵役の莉子に対して、悠斗が読者の目線で語れる存在であることに違いはないのだが、ワトソン役というかそういう役目がもう少しあっても良かったように思う(結局、その役目を担ってしまったのはちょい出の氷室だったわけで)。まぁ、悠斗が3巻以降二度と出てこないキャラならこれで良いのかもしれないが、2巻における悠斗はただハイパーインフレにおける都会の悲惨さを示しただけで……。
少し内容から外れた感想を言うと、1巻の合間に時折挟んでくるエピソードでネタバレはしていたが、まさかのハイパーインフレがネタとしてはオン白かった。加えてもし本当にそうなったらどうなるのか、ということに対して現実感(リアリティ)を強く持たせてくれる描写の多さが良かった。こういったところでのリアリティの強さや質の良さが、結果的にこのQシリーズが長く続くシリーズ作品としている要因なのだろうなと思えたほど。
ただリアリティが強すぎるのも考えもので、1巻のテンポの良い展開とは裏腹にすっかりテンポは遅くなってしまった。まぁ、それを補うのが1巻同様、短いパラグラフを繋ぎ合わせて一つの短編を本当に短く仕上げている手法ではあるのだが。むしろ、こういう展開こそこの手法は向いているのかもしれない。
評価は★★★☆(3.5点/5点)。豊富な知識による推理は素晴らしいのに読み終えた後の余韻があまり良くないのが勿体ない、って感じか。
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