コレクター 不思議な石の物語

≪あらすじ≫
自分が死んだら口に石を入れ、火葬後にそれを回収してある人物に届けてほしい—。祖母の遺言に従って作った「死人石」を持って、木島耕平は石コレクターの林を訪ねた。林に興味を抱いた耕平と生物教師ナオミは、人体が埋められているという「童石」の話を林に尋ねようと再び屋敷を訪れて…。不思議な石をめぐる、時空を超えた物語の結末とは。
(単行本裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
率直に、非常に出来がいい一冊だと思った。まず読みやすい。文章に癖がほとんどないと言ってもよく、下手な言い回しや回りくどい言い方も少ない。一人称で描かれていることもあって、地の文が主人公の内面とうまくリンクしていて、その内面も変に穿っていたり、偏屈したりしていないのが良い。
総じて良い意味で文章にも主人公にも特徴がない。文章の難解さや癖、あるいは下手な味付けで魅せようとしていないところが良い。文章をあくまで内容(ストーリー)を読ませるためのものとして機能していると言えるのは、評価されていいところだろう。主人公も、特別な力や技能を持つわけでもなく、考え方もいたって平凡な現代の若者という感じな点がGOOD。主人公が平凡な分だけ初老の「林」という男性キャラにだいぶ濃いめの味付けをし、さらに中盤以降は唯一の異性である教師「ナオミ」も同様にインパクト重視となっており、そのあたりでバランスをしっかりと取っている。
さまざまな、摩訶不思議な石を題材としたストーリーは少しずつ少しずつのめりこんでいく感じが自分でも分かるほど面白い。もちろん、そこには題材以上に先にあげた「読ませる」文章の心地よさがあってこそ、でもある。
殺人や事件といった物騒なミステリーとはまた一味違った、不可思議なベクトルでのミステリーというのも非常に興味深く読ませてもらった。序盤の登場人物は主人公の高校生と初老の男性「林」がメインという構成も面白い。奇天烈な言動をする林が振り回しながらも、そこに嫌味を出さないような描写も素晴らしい。
中盤くらいまではのめり込んでいった本作だが、最後の最後で突き放されてしまったのが少々残念。童石の真相、死人石の正体といった部分が最後に駆け足で回収されてしまった感じが強く、そこがクライマックスというか見せ場というか山場だったはずなのにその肝心の部分が「読ませる」というより「(伏線を)処理する」という感じにしか見えなかったのはもったいない。
ミステリーからすれば、死人石なり童石なりの真相の欠片をつかんだ主人公たちが、それを糸口に真相を明らかにしていく方が本筋のはずだと思うのだが、その本筋に入る前段階の部分が全体の2/3くらいを占めてしまっており、もっとそういったものの謎を探って明かす部分が充実していないとミステリーとしては弱いかな、と。
(それが、この作品が大賞受賞作に一歩及ばず優秀作に留まった原因か?)
そういった部分のボリュームがもっと膨らんでいればもっと良かったと思う。
ただ、そうはいっても非常に読みやすくて面白かった一冊であることに違いはない。
評価は★★★★☆(4.5点/5点)。満点に0.5点足りないのは先にあげたミステリー要素の弱さというか、肝心の部分の薄っぺらさのせいかな。エンディングそのものは悪くないと思ったので、本当にその部分のボリュームがもう少し欲しかったというくらい。『このミステリーが凄い!』大賞の刊行されている本の中では、比較的万人に薦められると思う。
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