珈琲店タレーランの事件簿 感想
また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を

≪あらすじ≫
京都の小路の一角に、ひっそりと店を構える珈琲店「タレーラン」。恋人と喧嘩した主人公は、偶然に導かれて入ったこの店で、運命の出会いを果たす。長年追い求めた理想の珈琲と、魅惑的な女性バリスタ・切間美星だ。美星の聡明な頭脳は、店に持ち込まれる日常の謎を、鮮やかに解き明かしていく。だが美星には、秘められた過去があり―。軽妙な会話とキャラが炸裂する鮮烈なデビュー作。
(単行本裏表紙より抜粋)
さすがに通勤時間が暇になったので何か読もうと思って。ラノベじゃないよ?(笑 なので表紙はこんなんだけど挿絵はゼロなのでw
ぶっちゃけそんな表紙絵――いわゆるジャケ買いだったことは否定しないw 三巻が書店の目に着く所に山積みになってて、そのジャケットを観て、「まぁ、こんな私がとっかかるならちょうどいいか」と思って一巻から(笑
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
さて感想を前に、まずこの作品は『このミステリーが凄い!』大賞というノベルス・コンテストの一つに出されたものである、ということを説明しておく。第10回応募作で、大賞・優秀賞には届かなかったが、それ以外の「隠し玉」とされる「賞は取れなかったけど、作品にしてみたい」という作品に選ばれている作品だ。先にも挙げたように、続編が三巻までの出ていることを考えれば、「隠し玉」としては相応の人気と評価がされている、ということなのだろう。
ここからは私の感想となるが、感想を一言で言えば「ラノベっぽい」。良く言えば表紙絵に違わず全体的に文章は軽めで取っ掛かりやすいが、悪く言えばわざと難解な言い回しを多く使っており回りくどさが目立つ。中身は短編の詰め合わせ的な部分が多く、オムニバスとして考えればさらに読みやすいと言える。あと、半ば強引な恋愛要素もラノベっぽい。まぁ、作中時間では数か月という長丁場でもあるので作中時間で考えればあまり「強引」でもないのだけど。
登場キャラクターは、よく言えばリアリティが強く、悪く言えば創作物らしくない。「何が?」といえば、キャラクターの言動や性格がブレにブレている気がする。ブレてるというか、瞬間瞬間に気分が変わってる感じがして、それを「気分屋」とするならそれは確かにリアルと言えばリアルなんだよね。でも、フィクションで創作物のミステリー本にそれを求めているかと言えば、それは求められてないんじゃないかな、と。
特に見せ場でなければならないクライマックスでそういった要素が色濃く表に出てしまっていたのは勿体ない。もう少し一本気が欲しい。というか、主人公が泣き崩れたシーン、あれ隣に彼女いたよね?(笑 そういった場面設定というか、シチュエーション(舞台)作りが終盤になればなるほどお粗末。
加えて主人公は「んぐぁ」なんて変な口癖、ヒロインもなぞ解きをすると「大変良く挽けました」なんて芝居がかかった台詞を多用していて、その辺のギャップが悪印象にしているのかも。この辺りはどちらかに統一――私としては変な口癖や芝居がかった台詞を除いた方が良いと思うが――するのが良かったかも。キャラの個性がそうするとなくなるとも言われるかもしれないが、その程度でなくなるような後付けのキャラの個性なんてない方が良いと思う。
また、基本的に主人公の青年・アオヤマ(あえてこの表記で)の視点から描かれる一人称なのだが、その一人称を逆手に取った展開が多いのは賛否がある。特に彼の正体に関しては、彼がその職業じゃなきゃいけなかったのか、とも思ってしまった。ストーリー上その必要性を特に感じることもなかったので、その設定で行きたいなら三人称で描くか、一人称で描くのならストレートに「普通のコーヒー好きの大学生」くらいにとどめておいた方が、ヒロインの美星との対比というか、違いみたいなのが出た気がするのだが。
(以下、括弧内は完全にネタバレのため反転 結局、二人ともバリスタ――しかも主人公は独立まで考えて有名店で勤務――では、ヒロインが「バリスタ」であるという特異性・特殊性が完全に薄れてしまって意味がなくなっている。しかもコーヒーの淹れ方もうまいならヒロインがバリスタである意義が……)
ストーリーは先に挙げたように短編オムニバス。さらに日常系+地域密着系のご当地ミステリなので、京都に住んでる人や京都の地理勘を強く持っている人なら楽しめるけど、それ以外の人はまるで「一見さんお断り」とでも言いたげ。
致命的だと思ったのはコーヒーや喫茶店を舞台にしていて、それに対する知識や見解も十分なのにそれがほとんど本筋に関わってこないことか。これならもっとそういったコーヒーや喫茶店の要素が絡むような事件を仕立てあげるくらいのマネジメントはして欲しいところ。一巻でこれなのであまり作者さんとしてはこの作品で「殺人事件」を取り扱いたくはないのかもしれないが、いずれの謎においてもあまり「コーヒー」「喫茶店」じゃなきゃ出来ない事件や謎という感じはしない。
その謎――いわゆるミステリー要素も終盤はほとんどなかったと言っていい。最後の方は「あれ? 俺は『このミステリーが凄い!』大賞の隠し玉を読んでるんだよな?」と不安に思うほどで、ただの人間ドラマになっててミステリーを読んでいる、という感覚はゼロに等しい。
最後の方は視点をあっちこっち変えて書いていて、それは確かに推理小説における「叙述トリック」と呼べないこともないが、解かれた謎の答えが答えなのであまりそういうトリックを読んだという感覚が薄い。
あとは京都にも造詣が深いというか、地理勘のある作者さんなのかアレコレと具体的な地名がよく上がるのだが、それが逆に回りくどさに拍車をかけていた。そういった京都の地理勘が必要なシーンもあるにはあったわけだが、「ミステリー」というよりは「京都名所探検」みたいなところが強くなってしまっていた部分は、ちょっと本筋から外れすぎていた。
京都の地理勘がない読者からすれば単純に京都の地理勘がないと読んでも分からないところだらけで、作家・編集者ともにどうしてもそういったことがやりたかったなら冒頭か最後のページや解説が必要となるページに地図の一つくらい載せておくくらいの配慮は欲しい。
以上のことから、せっかくの知識や見解がストーリーの根幹や軸にそこまで関わっておらず、結果的に作者さんの単なる自慢話でしかないのが勿体ない。
そして先にも挙げたように一巻にして恋愛要素かぁ、と。新人でコンテストだったなら最初から詰め込めるだけ詰め込むのは当たり前なんだろうけど、それならもっとコーヒーや喫茶店の知識や見解が活きるようなミステリーが中身としてあるべきじゃないのかな、と。
ヒロインの背負っている過去を考えても、作中時間はともかくとして、現実で読む人たちの感覚からすればかなり重たい過去のはずなのに悪い意味で凄く軽く感じた。彼女の過去含めて、「運よく続編があればそちらにも踏み込む方向で」くらいでもう少しエンターテイメントとしても、ミステリーとしても中身の方に重点を置いて欲しかった。
評価は★★(2点/5点)。最終選考に残ったらしいが、確かにこれが大賞っていうのは素人ながらにないかな、というのが本音。あくまで「このミス」大賞は広義のミステリーをベースにエンターテイメントであることが第一義らしいので、こういう作品も最終選考に残るのはアリなのかもしれないが、やはり「このミステリーが凄い!」と言えるほどミステリーとして面白かったとは思えない。
ただ、アニオタからすればジャケットとしても(ちなみにジャケットだけで挿絵はゼロだが)、文章としてもラノベっぽい部分があるのは、取っ掛かりやすい作品なんじゃないかと思う。今のところ既刊三巻ならとりあえず全部読んでみるのも(時間つぶせるし)良いかな、とは思えた。
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