FIFA コンフェデレーションズ杯2013 日本(A) 0 - 3 ブラジル(H)
大 国 の 影
詳細は続きからどうぞ。
◆大国の影におびえ
自分たちのサッカーが出来なかった、というのは試合後の選手たちのコメントである。確かに去年のブラジル戦と比べてスコアは改善したが、内容は悪化したと言える。
失点シーンはその“おびえ”を相手に上手く使われてしまったかのような印象だった。もちろん、相手も上手かった。一失点目は、相手のポストプレーからネイマール選手のダイレクトボレーという、組織としての連携・個人としての技術の両立があって初めて成り立つ。しかもシュートコースも完璧で、GKにワンチャンもなかった(そもそもネイマールをフリーにしてはいけなかった、というDFのミスでもあるが)。
とはいえ、二点目・三点目はその一点目によって“おびえ”ていたように見える失点だった。二失点目はエリア内でブラジルに人数をかけられた結果、あのエリア内にフリーの選手が出来てしまった。あのエリアの中で数的不利になってもボックスの外に居た選手が危機感を覚えないのではまずい。
三失点目は完全に裏を取られていたので相手が一枚上手だったけれど。
試合を通してもブラジルのプレッシャーにおびえていた。攻撃においては相手のプレスを敏感に感じ過ぎていたのかパスミスがとにかく多く、守備においては生命線である前線からのプレスによるボール奪取にことごとく失敗した(これはブルガリア戦でもそうだったけど)。
◆大国の影すら踏めず
改めて結果を見ても、内容を見ても完敗だった。すでにW杯出場を決めている日本代表にとってコンフェデは、アジア王者として挑む戦いであると同時に、一年後のW杯本番を見据えた世界との「力比べ」の場であったが、力の差をまざまざと見せつけられた。
あくまで素人目ではあるが、ブラジルの圧倒的な個の力で手も足も出なかった、という印象ではない、正直。もちろん、失点シーン(ブラジルにとっての得点シーン)はいずれも個人個人の能力の高さが顕著に出たシーンではあったのだけど。
それよりもブラジルの凄さで目に着いたのは、中継の解説で何度も言われていたようにブラジルの組織力だった。本来は日本が十八番としてきたものであり、大国と戦う上で日本が十八番にしなければならないものである組織力だが、この一戦ではブラジルの方が上だった。
特に攻撃時の組織力の決定的な違いが明白。パスを受けた選手に対して、二人、三人と5~10m程度の絶妙な距離でパスコースを確保するブラジルに対して、パスを受けた選手が完全に孤立し囲まれてボールを奪われる日本という構図が90分終始続いた。
ブラジルがここまで組織的に動いてくることがもしかしたら驚きかもしれないが、それくらい「自国開催のコンフェデ開幕戦」というプレッシャーがブラジルにあったし、その分だけブラジルも本気だったということかもしれない(まぁ、ブラジルからすれば格下日本に開幕戦で負けるわけにはいかなかっただろうし)。
とにかく、だ。これは本来日本がやりたいことだった。適切な距離でショートパスを繋ぎ、ワンタッチ・ツータッチで相手の裏へ飛び出して、それに周囲の選手が連携してゴールを目指すこと。
W杯予選では選手間の距離が5m以内にまで縮まってパスコースが狭すぎて成功せず、今回は距離が15m以上と離れ過ぎてパスが上手く通らなかった。あと、全体的にパスミス・トラップミスが多い。無論、それが90分フルでゼロなんて選手はいないだろうが、それを95%・96%と確率を上げて行かないと、パスサッカーなんて出来ない。
結局、この試合で見えたのは「日本のパスサッカーは組織的ではなく、世界で通用しない」ということ。逆に通用した点は本田・内田・前田選手といった個人個人のレベルで何とか張り合える選手が数名確認できた、ということというのは皮肉なのかもしれない。
◆チャンスはあった?
カウンター。
基本的にはこの一言に尽きる。とにかく速攻・アーリークロスで数少ないチャンスはあった。本田-香川選手のラインを、マスコミは日本のホットラインみたいな言い方をするが、それは二人が近い距離でショートパスによるワン・ツーを繰り返すからであり、それを活かすための鋭い縦パスを本来はCBやボランチから欲しい。
でも、それがないから結果的にカウンターが最も効果的に見えた。少ないボールタッチでボールを前に運んでいく。あるいは、素早く外に叩いて、相手DFが下がりきらない内に、DFとGKの間にアーリークロスを入れて前線の選手に裏を取ってもらう。
それくらいしか、好機が見えなかったんだよね。
ボールを持って崩す、といってもそれが出来たシーンが今日の試合で何度あった? ほとんどなかった、皆無だったと言っていい。相変わらずサイドに展開しても内側に切れ込んでしまう一辺倒さがあり、ブラジルもそれを分かっていたようにボランチとCBを中心にガッチリと中央を固めるだけで守れてしまう。
それをもっとワイドに散らすためにサイドに展開したらラインぎりぎりまで深く入ったり、サイドチェンジを使ったりと工夫を見せて欲しかったが、その工夫はあまり見られなかった。試合を見てても、ブラジルの選手はピッチの両サイドギリギリまでワイドに使って戦っていたが、日本の選手はピッチの半分か1/3くらいでしか戦っていない。選手間の距離をコンパクトに保ちたいのかもしれないが、先に挙げたようにパスを受けた選手へのフォローのなさを考えると成功していたとはいえない。
今日は右サイドが活発だったのでボランチに居た遠藤選手が、なんとか右サイドから左サイドにボールを運んで相手守備陣をワイドに散らし、中央にスペースを作ろうと頑張っているように見えたが、肝心の両サイドの香川・岡崎選手がやっぱり内側に切れ込んでしまうので効果を発揮しなかった。
たぶんそれは選手も分かっていて、後半中盤以降はマークが集まる本田選手が自分からサイドに展開したり、両サイドバックがオーバーラップをしていたが、ペナルティエリアでの勝負が出来なかった。
◆ボックスに入れない
ボックス、つまりペナルティエリアの中に入れない。ここに入って行かないと勝負にならない、ということが分かったのは今日の収穫だった。
もちろんDFを中心とした守備陣はそこに絶対相手の選手を入れない・入れる前にボールをかきだすことを前提にプレーはしているのだけど、それでもそこで強引に踏み込まないとチャンスは生まれなかった。
何より日本が本当は活かしたい香川選手を活かすためにはこのペナルティエリア内に入らないと意味がない。彼がドルトムントで評価されていたのはこのペナルティエリア内での敏捷性と決定力だったはず。マンチェスターUに移籍してからもそれは香川選手のストロングポイントだったが、代表でイマイチ彼が結果を残せないのは左サイドにいることではなく、ボックスの外でばかりプレーするから。
あそこにいる限り香川選手はいかにマンUの選手といえど脅威ではないということだ。トップ下で使われるなど、まだ当人にはトップ下のポジションにこだわりがあるのかもしれないが、パサーとしてのトップ下では活きない。ザッケローニ監督が「(彼は)セカンドトップ」といったように、もっと1.5列目としてペナルティエリア内に入らないと……。
そういう意味では、今日のスタートポジションは良くなかったのかもしれない。1トップが岡崎選手だったのか、流動的な4-4-2だったのかは分からないが、前線で引っ張ってくれる前田選手などのFWがいないのは失敗だった。
◆大切なのは応用力ではなく基礎力
本田選手は良く「個の力」と口にし、それにつられるように周りの選手も多用する。でも、ファンとして、サポーターとして問いたいのは「じゃあ『個の力』ってなんなの? みんな『個の力』って言ってるけど、その具体的な中身をみんなで共有してるの?」ってこと。
もちろん、それぞれの選手のポジションや特徴で伸ばすべき「個の力」は違うだろう。でも、そんなところではなくもっと基礎的な部分で全員が共に伸ばさないといけないところがあるのではないか。それが今日のブラジル戦で見えたはず。
ボールを持ってポゼッションをして相手を崩す、ということはかなり世界相手に今の日本のレベルでは厳しい。それは独創性や創造性といったモノではなく、基礎レベルが違う。パス一つ、トラップ一つ、ポジショニング一つをとっても相手の方が精度が高い。
逆にいえばパスサッカーをしたい日本にとってパス一つの精度、トラップ一つ、ポジショニング一つの精度は生命線のはずなのに、それがお粗末では「やりたいサッカー」なんて出来るはずもない。なのに、やれ無回転シュートだ、ワンタッチプレーだ、フォーメーションだと言ってもその土台となっている部分が荒れていては、その上に立派なモノが建つはずもない。
実はFIFAが公開している今日の試合データを見てみるとちょっと面白い(FIFAのスタッツ)。
得点差・ポゼッションは違うが、それ以外で決定的な数字上の違いが実は少ない。シュート総数もブラジル14本に対して、日本10本と必ずしも差があるわけではなく、「日本のシュートは枠内に飛ばない」と揶揄されてきたが、今日は枠内シュート(Shots on goal)は6/10本と5本撃てば3本は枠内に飛んだ計算で、これはブラジルの9/14とほぼ同じだ。
ならば、あとは精度ということになる。
あとは数値上で決定的な差が、実はコーナーキック。ブラジルが4本あったのに対し、日本は0本である。これは単純に数値が少ないと言うだけでなく、「コーナーキックが少ない=相手の陣地深くでプレー出来ていない」ということだろうから、先にも挙げたようにペナルティエリア内での勝負の少なさ、あるいはそこでボールを回し過ぎて奪われている証拠のように見える。
◆あと二戦
これをシミュレーションとしたい。というのも、1年後のW杯本番でも日本が初戦を落とすケースは十分考えられる。そこでいかに気持ちを切り替え、残りの二試合で勝ち点6をとってグループリーグを突破するか、というのが大事になる。
気持ちの切り替えとチームとしての立て直し。
これを1年後を想定してシミュレーションする良い機会だ。ザッケローニ監督としても、選手としてもここから次の試合まででどうやって立て直すかが見物である。
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