魔法使いの夜 総評
1980年代後半。三咲市と呼ばれる街の中には、とある都市伝説のようなものがあった。人も寄り付かない鬱蒼と木々が生い茂る丘の中腹には魔女が住んでいる、と。もちろん、魔女なんてものは迷信であると誰もが思っており、ある種の怪談話のような感覚でほとんどものが捉えていただろう……
ほんの一部の真実を知る者以外は。
三咲市にある高校に通う蒼崎青子(あおざき・あおこ)は、文字通りその丘の中腹にある洋館に下宿する魔女――と言うよりも、最新の魔法使い。彼女は、相棒であり、自らの“魔術”に関する事柄の師でもある別の高校に通う正真正銘の魔女・久遠寺有珠(くおんじ・ありす)と共に、高校生活と自らの縄張りである三咲市にちょっかいをかけてくる外部の魔術師を撃退する日々を過ごしていた。
そんな彼女が高校で出逢ったのは、山から下りてきた少年の静希草十郎(しずき・そうじゅうろう)。山奥で生活していたためか、文明人とはまるで違う感覚や感性で生きる彼に、なぜか青子は苛立ち、気になってしまう。
そんな折、隠匿すべき魔術行為をその草十郎に見られてしまい、青子は草十郎を口封じのために殺す決意をするのだが――
そんな『魔法使いの夜』の総評です。総評を書くと言って早二週間www いや、忘れたわけじゃないんですけどね、なかなかタイミングが(爆
A
です。(S、A~Dの五段階評価)
では、詳細は続きをどうぞ。
※あくまで評価は、私的主観によるものですのでご了承下さい。
魔法使いの夜 総評
発売年日:2012年04月12日
ハード:PC
対象年齢:15歳以上推奨(EOCS)
攻略時間:-
備考:キャラボイス、本編選択肢なし
※評価についてはこちらからどうぞ→評価について
※他の評価についてはこちらからどうぞ→評価一覧
パッケージ・解説書・特典 評価:B
解説書はPCソフトなのでもともと大したものはなく、パッケージはまぁ普通。特典として封入される「魔法使いの基礎音律」も今の時代、別段評価されるほどのものでもなく、この程度のモノであるならば同レベルの特典は標準的な装備だろう。
グラフィック・登場キャラクター・CAST 評価:S
キャラクターボイスは無いのでCAST評価は出来ないが、グラフィックと登場キャラクターに関してはずば抜けて優れている。オートで再生することを前提に、練り込まれた演出は秀逸で、立ち絵と背景の組み合わせだけでまるで一枚絵のCGのような錯覚を受けるようなシーンはかなり多い(あとあとCGモードを見て、そのCGの枚数が、他の作品と比較してもそこまで飛び抜けて多くないことに気づく。つまり、立ち絵と背景の組み合わせだけであそこまで魅せていたと言うこと)。
TYPE-MOONが『Fate』シリーズまでで作り上げ、組み上げてきた紙芝居的な手法のさらに一つ上の次元にある演出とグラフィックがここにある。
キャラクターたちもとても魅力的。選択肢こそないのでゲーム性自体は高くないが、主要三人の蒼崎青子・久遠寺有珠・静希草十郎のそれぞれにとても大きな魅力を感じられる。
シナリオ・ストーリー 評価:A
ここは人によって賛否両論分かれる部分だろう。シナリオのボリューム、完成度を考えると否定的な意見も出てきて仕方ない部分はある。実際にこの『魔法使いの夜』自体が本来は三部作で、その中で書き終わっている第一部だけのゲーム化したようなものらしいので、シナリオ自体の完成度と言うか、そういうものが低いのは致し方ない。実際に第二部以降で活躍するであろうキャラクターにとっては、この第一部はそれこそ顔見せ的なことしかしていないキャラクターも少なくない。
でも、それを差し引いても面白いと思わせるモノだったと評価する。あとは終わり方が良かった。これは多くの人が納得する部分じゃないかな、と思う。ハッピーエンドと言うかグッドエンド的な、人としての倫理観や常識を放棄するのが魔術師でありながら、その結末がとても人情的な辺りがね。
OP/ED/BGM 評価:S
楽曲のレベルは高い。この辺りはさすがTYPE-MOONというか、この作品に逢う素晴らしい楽曲が揃っているなと言う印象。
システム・やり込み度 評価:B
システム面は基本的に今の時代の標準的なモノ(セーブ、ロードはもちろん、それぞれクイックセーブ・ロード、オートモード、スキップ、ストーリー・CG・BGMの回想モードなど)は一通り揃っている。
やり込み度の評価はかなり難しい。というのも、前述のように本編には選択肢がないので、それこそゲームを起動してオートモードにしておけば、後は勝手にエンディングまでいってくれる(まぁ、チャプターごとに区切られてしまうので、その都度クリックする必要はあるが)。
そこでゲームソフトにおけるゲーム性をギリギリ保たせているのが番外編。番外編は選択肢による犯人捜し・犯人当ての要素がある推理ゲームのようなやり込みがあるので、そこだけが唯一ゲーム的な部分。
総合 評価:A
主観で言えば文句なしな作品なのだが、ある程度客観的にと言うか、こうして数値上に現して評価するとこういう結果になるのだろうなと思った。客観的に言えばこれくらいの評価が妥当だろう、いやホントに。
最大の魅力は、グラフィック・BGMの多様な組み合わせによって圧倒的なクオリティで私たちにまるで映画を見せつけてくるようなまでの演出だ。それに関しては文句のつけようがないと思う。まぁ、細々とした部分で専門的な勉強や経験を積んだ方なら、カメラワークやら何やらで言いたいこともあるかもしれないが。
だから、それに関わらない部分でのゲーム性というか「ゲームソフトとしての評価」は正直高くは無い。最低限、平均ラインを維持していると言う感じ。
でもまぁ、これが「普通のゲームソフト」ではないことを考えれば、それもまた致し方ない部分でもあるのだろう、と思ってしまう。
ノベルスのゲーム化、と言うよりはノベルスの映画化・アニメ化の方に近い印象がある本作。昨今有名なブランドの製品ほど将来的なアニメ化を始めとした他分野へのメディアミックスを想定していると思わされる部分もあるが、正直ここまでのクオリティと演出ならしばらくアニメ化する必要性は感じない。
それほどの出来。むしろ、このクオリティの作品のアニメ化なんてハードルが高すぎるだろう。原作がほとんど動画同然に動きまくっている(アニメのようにぬるぬる動くわけではないが)以上、普通に作ったらどう頑張っても原作の劣化にしかならない。
仮に今、同社の『Fate/Zero』をアニメ化しているufotableが担当したところで、今の製作状況では原作に比肩しうる作品と言うのはおそらく作れない。まぁ、アニメはアニメでもTVじゃなくて劇場版で数年の歳月を費やすのなら可能かもしれないが、それくらいのレベルなのだ(実際に、原作の方も発表から発売まで何年を要したことか……)。
今後、五年・十年において演出面における模範というか、最高水準を叩きだした作品とも言えるだろう。TYPE-MOONに少しでも興味があるなら手にとって損は……たぶんない(苦笑 いや、この値段でこのボリュームだからね。その辺りの損得勘定はやはり個人差が大きく分かれてしまう部分は否めない。
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