魔法使いの夜 プレイ日記【10】
第十章『月に吠える』
~冬の一日・掃除編(A day in the winter Cleaning up)
~夜のはじまり(Beginning of the night)
~久遠の魔女(A witch of eternity)
~さよなら赤ずきん(Farewell, Little red riding hood)
~雪の降る里の跡(Snowing on the deserted village)
《あらすじ》
クリスマスイヴは、今年最初の降雪となり、見事ホワイトクリスマスイヴを演出していた。そんな俗世から隔離されたように佇む久遠寺邸では、青子と有珠がこの二日間で橙子との戦いに終止符を打とうと決めていた。
五本ある三咲市の“支柱”の内、すでに三本は破壊され橙子の手に落ちた。残りは二本。それを失えば、蒼崎の管理地というのは名前だけのモノへと成り下がる。護るべき場所が二つある以上、青子と有珠は二手に分かれることを余儀なくされる。
青子は最も大きなバックアップを受けられる生家のある陶川の支柱へ、
有珠は残るもう一つの支柱がある社木へ
同居と言えば聞こえはいいが、実際には期限付きの監視――しかも期限後には記憶が消される――の草十郎は久遠寺邸に残される。彼が前日に呟いた、橙子の髪型の変化から青子と有珠は、橙子が自分自身よりも強力な使い魔を得ている可能性を感知しており、強いて言えばそれだけが彼の出来た二人への精いっぱいへの支援であり、見知らぬものを久遠寺邸に上げたささやかな対価だった。
そして、橙子が現れたのは……有珠が護る社木の公園。
挨拶もほどほどに始まる魔術戦。互いに内包する最速の一工程(シングルアクション)の魔術・魔眼による戦いは、神秘と言われる魔術を大量生産すると言う愚行に出た橙子が一枚上手。しかし、その先を見越し自らの最大の使い魔であるテムズトロルを、工夫によって召喚条件を満たしてこの世に呼び出した有珠は、魔術戦において橙子をも凌ぐ。
だが、しかし――
橙子が隠し持っていた最大の切り札は、現代に残る最後の人狼。先祖返りなんて言葉すら生ぬるいほどの原型たる金の鬣を持つ最古の神秘だった。
ベオウルフ
そう名付けられた金色の人狼になす術なく、一瞬でテムズトロルは崩壊し、有珠も腹部を引き裂かれた。
一方、久遠寺邸に残っていた草十郎の下に、電話の呼び鈴が響く。彼が同居を始めて、初めて鳴る呼び鈴を同居人が誰もいないことを知って草十郎は取る。
電話の相手は有珠だったがすぐに切れてしまう。そしてまたしても鳴り響く呼び鈴の先にいたのは――
《感想》
冒頭にあった『冬の一日・掃除編(A day in the winter Cleaning up)』は、体験版にもあったワンシーン。あのままかと思っていたら、あの続きはなかなかに辛辣だった。半ばなし崩しでの同居だったが、実は「記憶を消すまでの期間限定」と言うのを覚えていたのは青子だけで、草十郎はともかく有珠はそのことすら忘れていたのは、ここいらで釘をさしておこうと言うことなのだろう。もちろん、物語的に、だけど。
そうなると、ラストは草十郎の記憶を消して終わりかな、それって全然ハッピーエンドじゃないんだけど(苦笑
さて、今回は有珠の魔術戦。本編外の一.五章は絶対に有珠の魔術戦があるのだけど(体験版で体験済み)、一応本編では最も“らしい”魔術戦だろう。遊園地の戦いは、フラットスナークだけが暴れた感じだし、青子の戦いはそもそもビームに等しい魔力をはじいた(スナップした)だけだしねー。
最速のシングルアクションから繰り出される魔眼から、互いのメインであるプロイキッシャーとルーン魔術。ルーン魔術の方は思いのほかあっさりしていて、肩すかし。
ただまぁ、それよりも強かったのがまさかのポッと出の金色の人狼と言うのがねw 人狼そのものの戦闘シーンは無かったが、「神秘はより強力な神秘の前に負ける」というのがこの世界におけるものだから、人狼の原種なんてのは神秘の度合いで言えば、きっと人の手によって再現されるテムズトロルよりも上なんだろうね……。個体の大きさではなく、その存在が持つ神秘の度合いによって勝敗が決まってくるのが魔術戦って感じが個人的に好き。
もちろん、より強力な神秘を生み出し、且つ相手の神秘を封じるための戦術・戦略こそが本当の意味での魔術師同士の戦いの真髄なんだろうけどね。その辺りは、有珠がテムズトロルを呼び出すところくらいにしか感じられなかったのはちょっと残念と言えば残念。
そう言えば、青子も有珠も正直、詰めが甘いと言うか何と言うか……。有珠も橙子のことを知っている(というか、古くから蒼崎家とは付き合いがあったよう)で、それをベースに青子も有珠も相手の戦術を予想していたけど、それって裏を返せば橙子も青子や有珠の戦い方を知った上で戦術を練っていることを失念しているんじゃないか、と。
でもまぁ、そこは考え過ぎても仕方ないのか。相手に手の内が知られているのはお互い様だし、相手に手の内を知られたからと言って普通は安易に鞍替えなり、何なりすることは魔術には到底出来ないことだし。橙子はその辺りの切り札として、この戦いが始まる前からベオウルフの必要性を感じていたのだろうし、魔術戦では有珠が上手だったが、この辺りの執念と言うか積み重ねと言うか、そう言う部分による実戦と言ういみでは、橙子の方が一枚上手な印象。
そして戦いが終わった後の『雪の降る里の跡(Snowing on the deserted village)』。こちらも早期にCGビジュアルが公開されていた、腹部に傷を負った有珠を背負っている草十郎と言うシーンに代表される。
個人的にはここまでで好きなシーンの一つ。魔女であろうとする有珠と、弱り切って随所に垣間見せる人間性のギャップがたまらない。まぁ、それは有珠から言わせれば侮蔑や皮肉以外の何者でもないのだろうけれどw
ここにおいて、有珠における草十郎の認識が少しずつ伺える。認識って言うよりもその変容か。あるいは、魔女であろうとすることで頑なに閉ざしてきた少女としての本心だろうか。
おんぶされていた彼女が一瞬見せた残念そうな心情は、魔術刻印を全身(? 腹部だけか? あるいは内臓に刻まれたのか)に刻まれた結果として「生への実感が欠けている(と橙子は指摘)」という状態に対して、おんぶされたことで感じていた草十郎の体温と言うものが、彼女の欠けていた生への実感をちょっとだけ補填したんじゃないだろうか、と。
補填された結果、欠落した部分を埋めていた「魔女」としての要素が少しだけ「久遠寺有珠」という型からこぼれおち、その先に垣間見せた少女としての久遠寺有珠。それはこの上なく可憐で華奢で、その姿かたちそのままの少女であったことが当然と言えば当然で、意外と言えば意外。そんな矛盾した感覚は、青子だったり、草十郎だった李、そうした矛盾を踏破するようなキャラクターの活躍する本作の感想としてはもしかしたら最も相応しいのかもw
そんな風に見えたワンシーンは、久遠寺有珠と言うキャラクターに触れる上で欠かせない名シーンなのだろう。
本日はここまで。次回は明日。
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