Angel Beats! 9話まで放映を終えて
- ジャンル:[アニメ・コミック]
- テーマ:[Angel Beats!]
とりあえず、色々賛否両論と波紋を広げて第9話までの放映を終えたAngel Beats!ですが、非常に嬉しいことに、非公開で大変興味深い長文のコメントを頂けました。
名前や詳細な内容はもちろん非公開コメントなので控えさせて頂きますが、せっかくなのでその中から、割と多くの方が抱いているだろう興味深い疑問や謎に対して、少しだけ私の意見を書かせて頂こうかな、と思います。
コメントして下さった方や、それ以外の方でも楽しんでいただければ幸いです。
■この展開をここまで引っ張る必要性はあったのか?
これに対して、YesともNoとも答え辛いところです。それは、各々がここまでの脚本に対する捉え方によって、見解の相違が幾らでも生まれてしまうから。
と言うことで、少しだけ視点を変えてみましょう。これまでの展開はどういう展開だったのか?
1話:序章、プロローグ。この世界とSSSと天使の説明
2話:武器生成(ギルド)の存在、天使の戦闘力をさらに異質に魅せる
3話:卒業(消滅)の実例提示(岩沢)
4話:卒業(消滅)の一時回避実例(日向)
5話:奏、生徒会長更迭。音無と奏の対話のきっかけ
6話:直井の叛乱。二人きりで閉じ込められることで音無と奏の関係性の発展
7話:SSSと奏の関係性向上。いうなれば天国
8話:攻撃性と使命感を持つ天使量産化。いうなれば地獄
9話:音無の記憶完全復活。音無、生徒会側へ
全編:音無とSSSの交流を深める
まぁ、要約すれば上のような形になるでしょう。
こうして観た時、どこかの話に明確な無駄があったか、と問われると、それに対して是・Yesと答えられる部分は逆にないのではないか、と思います。
アニメである以上、1話で世界観やSSS、天使と言った観る上で最低限必要な知識を視聴者に与える必要性を考えれば、1話の展開は当然外せず、その延長線上にSSSがどうして武器を持っているのか、天使の力はどれくらいなのか、という真っ先に浮かぶ疑問の解消の話が2話で続く。
そして3話・4話で実例を見せたのは、そうでないと実感を得ることが難しいから。5話では物語が動き出し、これまでSSSとしか交流を持たなかった音無が奏とも交流を持つきっかけを与え、6話で発展させる。
7話と8話は、一種のギャップである7話で奏と仲良く出来るSSSを描くことでまるでハッピーエンドのような情景を与えつつ、8話では攻撃性の強い天使が一気に出現することでバッドエンドのような情景を与える。
9話では、音無が全ての記憶を取り戻し、自らの意思でこれから先への展開を決めた。
全編を通してSSSとの交流を深める必要があったのは、そうでないと彼にはSSSの仲間たちの記憶に対する興味を持つ動機がない・記憶を取り戻した後に彼があの世界に残留する意味がないから、だと想います。彼の取り戻した記憶が正しければ、彼は記憶さえ取り戻せばあの世界にいる必要はないわけですから。
9話までで全く削れるところがなかったのか、と問われればもちろんそれもNOです。例えば、音無の記憶が8話で途中まで取り戻す必要性は大してなく、9話で一気に取り戻してもそこまで問題はなかった(尺としては妹の場面から列車事故までの場面まで描くのは問題がありそうです。それだけで30分終わりそうなので、30分枠のTVアニメーションとしては問題かも)。
ただ、総じてそこまで不要なところがなかった。1クールと言う限定的な尺と1話1話を観ている側からすれば、この結論に辿り着くまでに長さを感じてしまうかもしれませんが、1クールと言う全体を見通せば決して長過ぎることはなかったように私は思っています。
■音無はなぜ記憶喪失だったのか?
まず、大前提に音無が本来持っていた記憶からすれば、死(あるいは列車事故救出隊が現れる瞬間に意識を手放す時)までの記憶を持っていた場合、彼はあの世界に来る理由がない。確かにそこに至るまでの記憶は理不尽で、あんな人生認められないと想うようなモノだったのかもしれないが、彼は最後の最後で生きた証を残し、誰かに命を繋げた可能性を信じられたのだから。
では、なぜそれが前提にならないといけなかったのか? 最初から音無もゆりたちのように理不尽な人生を送った一人にすれば良かったのではないか?
ところが、それだとこの脚本では問題が生じる。あの世界に出現するまでは良いが、そこから奏と和解し、協調し、SSSメンバーの理不尽さを紐解いて卒業させよう、という意思には達し得ない。仮に自分の理不尽さを解消したとしても、元々理不尽だけであの場にいたのなら、解消した瞬間に岩沢のように卒業(消滅)するだろう。
自分の全ての記憶を取り戻し、理不尽さもある意味解消しても、(奏曰く)SSSへの仲間意識であの世界に残れたのは、あの世界に居るにしてはあまりに異質な音無が本来持っているはずだった記憶の為だ。元々、最後の瞬間に理不尽さを感じていなかった音無からすれば、それが解消されても未練がある限りはあの世界に留まれる可能性がある。
だからこそ、音無結弦と言う存在は人生に必ずしも理不尽さや絶望を抱く“だけ”の存在では困るのだ。もちろん、それはあの脚本とこれ以降の「SSSメンバーを卒業させる」と言う展開に限った話だが。
まぁ、それとは別途、「ではどうして音無結弦はあの世界に出現出来たのか」と言う疑問はあるが、それについてはおいおい。おそらく、それはまた別に理由がありそうだし。
■ゆりは本当にリーダーとして有能なのか?
これはまず自分の書いた本文に問題があるw 『リーダー』と言う存在に何を求めるのか、と言うことを明記しなかったわけですから。では、リーダーと言う像に何を求めるのでしょう?
リーダーに作戦遂行能力を求める人もいれば、グループの精神的支柱を求める人もいれば、グループ全体の意見を調節するまとめ役を求める人もいれば、逆に圧倒的なカリスマ性を求める人もいる。
それぞれのグループが求めるリーダー像は必ずしも同じではないので、何を取って「ゆりはリーダーに相応しいのか」と言う議論とすれば良いのは、その定義を定めるだけで賛否両論・さまざまな意見が巻き起こるはず。
ただSSSにとって必要なリーダー像は何か、と考えると、それはもちろん対天使のミッション立案能力であり、遂行能力であるには違いありませんが、対天使戦がSSSの存在意義ではない。
彼らの存在意義は、あの世界の神を見つけ、必要なら倒してあの世界をある意味乗っ取ること。それによって消滅を避けること。対天使は、神へ繋がる可能性であると同時に自分たちの可能性を潰そうとする天使に対抗する為だけの手段であり、目的ではない。
そうなると、あの世界にいるSSSにとってリーダーとして重要なのはグループの精神的支柱であり、組織の方向性を示してくれるカリスマ性を有している人物、と言うことになるでしょう。
ゆりは色々な可能性を常に考えており、その点ではそれを放棄している他のメンバーとは一線を画している(逆にゆりが考えてくれるから他のメンバーが何も考えないという可能性もあるが)。その上で組織を導けるのであれば、導く方向がどうあれ、SSSにとってはリーダー足り得るし、ある程度の戦果をおさめているゆりは有能と言えるのではないでしょうか。
ちなみに『ゆりの作戦ってそんなに良かったか?』と言う疑問もあるようですが、SSSだけに視点を限定すれば悪くはないはずです。天使の邪魔は入っても、ほとんどのオペレーションは成功を収めている。対直井戦は想定外ですし、オペレーションと言うよりは迎撃戦に近い形で作戦も取れなかったでしょうし。
ギルド降下作戦はギルド施設を失ったけれども、人員を確保することが出来ているのだから問題ない。
奏のテストの点数を工作した作戦も、奏の立場から見ると悪質ですが、SSSの立場からすれば敵の地位を貶める行為は作戦として決して珍しいものではない。
第二次ギルド降下作戦も奏側から観れば奏を危険にさらした結果だが、SSSの立場からすれば分裂した天使が一つに戻ったのだから、当面の危機は回避している。凶悪性を持ったまま奏が覚醒した場合、それはそれで再分裂する可能性があるが、かといってあの現状を放棄するわけにもいかないだろう。よって指して問題はない。
■ゆりは悪役か?
まぁ、答えはNoなんですけどね。この脚本と演出だと悪役にしか見えませんが。
彼女が自分の考えと思いこみだけで戦って周囲を巻き込んできた、と言う意見もちらほらありますが、じゃあ果たしてそれの何処が悪かったのか、という疑問が個人的にあります。
自分の考えと思いこみで行動するのは、誰だって同じこと。行動の結果、周りが巻き込まれるのは良くも悪くも当然のこと。言ってしまえば、音無だって同じことが言えるわけです。周囲から情報を集め、彼の場合は奏とも和解出来て奏の話も聞いた上で、自分の考えでこれから先SSSメンバーを卒業させようと決意してこれから行動を起こすわけですから。
ゆりも情報を集め、おそらく彼女も彼女でまじめに授業を受けた人が消滅したりするのを観て、このままではいけないと想い、SSSを立ち上げたか、あるいは加わった。
情報の収集手段や情報を得られる場所は全員が平等で画一的に同じわけではないので、そこに違いが出るのは当たり前で、そこに違いがあるのだから結論が違うのは当たり前なのです。
ゆりはゆりで、集められた情報を最大限活かして考えた結果として今の行動を起こしているはず。かつてのロボットアニメやヒーローアニメではないのだから、勧善懲悪な物語などではなく、極端な話をすれば登場人物一人ひとりに主張があって正義がある。だから、そう言ったモノがしっかりとあるならば、その存在は一概に『悪』と断定することは出来ないはず。
彼女の立場から観れば、彼女の行動は『悪』ではなく『正義』なのだから。逆に言えば、今のSSSからすれば卒業と言葉を変えても自分たちを消滅させるという客観的事実が変わらない音無の方が『悪』でしょう。観方の違いなのです、あくまで、『正義』と『悪』と言うのは。
視聴者からすると、ABでは視点がSSSから音無、音無から奏へとある意味主観が置き換えられた為に、音無や奏に害を与える=悪役と言う構図に見えがちなだけです。麻枝氏の脚本なので意図的なミスリードの可能性もありますし。
■最後に
これはコメントで頂いたのですが、尺的な問題は私も感じています。ここまでの展開に決して不満はないですし無駄も感じませんが、ここから先の展開に不安はあります。あと3話、どんなに長くても4話でクライマックスへ持っていけるのか? 1クールと言う長さは当初からの規定だったのか、麻枝氏の要望なのかは不明ですが、個人的にはやっぱり麻枝氏の脚本で1クールは短すぎたのではないか、と思います。最低限2クールは必要だったような気がします。
これもコメントなのですが『アニメとゲームの脚本はやはり違う』と言う意見には私に同感です。アニメの脚本とゲームの脚本はやはり似て非なる物、と改めて感じました。もし、麻枝氏がこのアニメ版を基軸としてさらに幅を持たせ、ボリュームを追加してABをゲーム化したら、それはおそらくかなり秀逸な作品になるような気がします。でも、アニメでしかも1クールと言う短い限定期間ではやや限界が見えてしまったのかなって。
まぁ、兎にも角にも残された話数は少ないですので、後はこの物語をどうゴールに着地させるのか。ゴールへの着地手腕が優れている麻枝氏が、どういったゴールをこのABに用意しているのか、楽しみに待っていたいと想います。
- at 14:00
- [アニメ(放送終了):Angel Beats!]
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